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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第七章 解かれた呪縛
60/73

01

 ナオとカズホは、少しずつではあるが着実に親密になっていった。しかし、そのことでナオは、家庭の問題、そして、レナから頼まれたバンドの問題を、知らず知らず先送りにしていた。カズホと毎日ドールで会って話ができるという今の状態で十分幸せを感じていたからだ。

 一方、軽音楽部の二年生バンド。ドラマーも見つかって一応練習もしているが、ボーカルが見つからず、いまいちモチベーションが上がらなかった。

 そんなある日の放課後。

 部室にいたマコトの携帯にショーコから電話が掛かってきた。

「ああ、マコト。久しぶり」

「ショーコさん。どうしたんですか?」

「風の便りに、伽羅が消滅したって聞いてさあ。元気にしているかなって思ってね」

「相変わらず地獄耳すねえ。とりあえず新しいドラマーが加入してくれたので、一応、バンドとしては活動できていますけどね」

「本当? 久しぶりにマコトのギターとカズホのベースを聴きたくなったから、また、顔を出してみようかな」

「どうぞどうぞ。歓迎しますよ。一年生も四人入部してくれてバンド組んでいるから、聴いてやってよ」

「そうか~。明日とか大丈夫かな?」

「全然、大丈夫すよ」

「分かった。それじゃあ、明日午後五時くらいに部室にお邪魔するよ」

「了解。お待ちしています」


 翌日、ショーコは自分のバンドのメンバーを引き連れて、軽音楽部の部室にやって来た。

「ギターのヒロコと、ベースのカズミだよ。どちらかというとマコトとカズホの演奏を聴かせに連れて来たのよ。参考になると思ってね」

「よろしく~」

「噂はかねがね聞いているよ。年下だろうと上手いプレイヤーの演奏は参考にしないとね」

「そうなんすか。ははは……。後で一年生バンドの指導をお願いして良いすか?」

「もちろん。一応、先輩面せんぱいづらはさせていただかないとね」

 その時、マコトは、遠慮がちに部室のドアを開け、中を覗き込むようにして顔を見せたレナと目が合った。

「あれ、どうしたんだ? レナ」

「ショーコさんにお会いしたいと思ってやって来たの。ハル君から、今日、ショーコさんが来るって聞いたから……」

「ショーコは私だけど……」

「あっ、こんにちわ」

 レナは部室に入って来て、ショーコに丁寧にお辞儀をした。

「初めまして。二年五組の立花麗菜といいます。実は、軽音楽部の部員なんですけど、ちょっと事情があって休部中なんです」

「ああ、マコトとバンドをやっていた歌姫ってあなただったのね。で、私に何の御用?」

「あの、ちょっと二人だけでお話したいんですけど、よろしいですか?」

「ええ、良いわよ」

「中庭にベンチがあるので、そちらに移動していただいてよろしいですか?」

「OK」

 新館と旧館に挟まれた中庭は庭園のように整備されており、いくつかベンチも設置されていた。部室を出たレナとショーコはその中の一つに腰掛けた。

「すみません。でも、どうしても、ショーコさんに相談したいことがあって……」

「初めてお会いするのに、相談したいことって何かしら?」

「水嶋奈緒子ちゃんのことです」

「ナオちゃんのこと?」

「はい。そして、それは私のことでもあるんです」


 しばらくして、レナはショーコと一緒に部室に戻って来た。

「ショーコさん。レナと何を話していたんすか?」

「女の子だけの秘密の相談。マコトみたいに、がさつな男には関係ないのだ」

「ああ、そうすか~」

「ところで、マコト。今は、どんな曲を練習しているの?」

「カズホが新しい曲を三曲作ってくれているので、それを練習しているんすよ」

「楽譜はある?」

「ありますよ。これです」

 マコトはテーブルの上にあった楽譜をショーコに手渡した。

「ふ~ん。……キーボードパートもあるんだ」

「ああ、それは将来に備えてってことなんすけど」

「入部してくれそうな子でもいるの?」

「それこそ、ショーコさんの従兄弟の水嶋奈緒子って子ですよ。カズホと仲良しなんで、ひょっとしたら入部してくれるかもって期待しているんですけどね」

「ナオちゃんか。なかなかガードが堅いんじゃない?」

「そんな感じですね。ショーコさんからも言ってやってくださいよ」

「分かった。この楽譜のコピーをもらえないかな?」

「えっ、……良いですけど、どうするんですか?」

「ナオちゃんに渡すことができれば渡しても良いかな?」

「ああ、それはもう。だけど、受け取ってもらえますかね?」

「うん、まあ、私に任せて。レナちゃんも楽譜のコピーをもらえば」

「あっ、はい」

「まだ、詞は付いていないんでしょう? 歌い手さんが自分の言葉で詞を付けるのが一番良いからね」

「……?」

 マコトはショーコが言っていることが理解できなかったようだったが、レナはちょっと慌ててマコトに言った。

「ああ、マコト! 私も、久しぶりにバンドでギターを鳴らしたくなったのよ。この三曲、練習してくるから、今度、うちのスタジオで合わせてくれないかな?」

「えっ、レナが? ……それは良いけど、どういう心境の変化?」

「ショーコさんに色々と相談させてもらって、ちょっと吹っ切れたところもあって……。一回で良いから……。どうかな?」

「ああ、俺は大歓迎だぜ」

「土曜日の午後三時頃とかは、みんなの都合はどうかしら。三曲だけだから一時間ぐらいで良いよね」

「俺は大丈夫だ。カズホとハルはどうだろう?」

 マコトは、ドラムが設置されている部室の奥の方で、リズムセクションの打ち合わせをしていたカズホとハルにも都合を訊いた。

「土曜日はバイトもないし大丈夫だよ」

「僕も午後三時なら大丈夫」

「OK。じゃあ、決まりね」

 レナとショーコは顔を見合わせてにっこりと笑った。

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