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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第一章 無愛想な出会い
6/73

06

 ナオ達が入った時、店内には心地良いサキソフォンの音色が流れていた。

「マスター、久しぶり」

 ショーコは、カウンターの奥の方に座ってパイプをくわえていた初老の男性に声を掛けた。

 頭にはニット帽をかぶり、おそらく老眼鏡であろう縁なし眼鏡を掛け、白髪交じりの口髭と顎髭を蓄えていたが、温和な性格がにじみ出ているかのような好々爺(こうこうや)という感じだった。

 マスターは、ニコニコ笑いながら立ち上がった。

「やあ、ショーコちゃん、久しぶりだね。今日はどうしたんだい?」

「うん。我が母校、都立美郷高校に従兄弟が転校して来たんで、久しぶりに学校の近くで会ったのよ。で、そのついでにドールにも寄ってみたわけ」

 店内には、カウンター席に二人の客がいるだけであった。ショーコとナオが入り口に一番近いテーブルに向かい合って座ると、ほどなくマスターがお冷やを持ってきた。

「いらっしゃい。何にしますか?」

「私はブレンド。ナオちゃんは?」

「それじゃあ、カフェオレをください」

「はい」と言って、マスターはカウンターの中に戻った。

「ところで、ナオちゃん。福岡には四年間いたんだっけ?」

「うん。中学の三年間と高校一年まで」

「どうだった。福岡は?」

「うん、良かったよ。お父さんと二人きりで生活できたから」

「あははは。ナオちゃんも相変わらず正直者だね」

「あっ……、いえ。今が良くないっていうわけじゃなくって……」

「でも、そういう風に聞こえたけど」

「そんな……。もう、ショーコちゃん、虐めないで」

「あははは。ごめんごめん。でも、……正直な気持ちなんだよね」

「う、うん。……四年間インターバルがあったから、前よりもっと自然に接することができるかなって思っていたけど、……変わらなかった」

「そっか」

「自分が悪いのは分かっているの。お母さんと素直に向き合うことができない自分が嫌いで……。だから家では、なんか疲れちゃって……」

「そんなことじゃ、いつか潰れちゃうよ」

「私、どうすれば良いんだろう?」

「そうだなあ。ナオちゃんが潰れないようにするためには、本当の自分をお母さんにぶつけるしかないんじゃないかな」

「本当の自分?」

「ナオちゃんはお母さんに対して遠慮しすぎなんだよ。ナオちゃんはそんなに引っ込み思案な女の子じゃないでしょ」

「それは分かっているんだけど……」

「とにかく家にいるだけでストレスを感じてちゃ、本当に駄目になっちゃうよ」

「とりあえずは帰宅時間を少しでも遅くしたいと思ってて……。今日も、ショーコちゃんが誘ってくれて嬉しかったんだ。それだけ家に帰る時間が遅くなるから」

「でも、私も毎日は誘えないよ」

「そうだよね。……明日からどうしようかな?」

「クラブやれば。福岡ではバンドをやってたって、おじさんから聞いたけど」

「うん。中学の三年間はずっと女の子ばかりのバンドでキーボードを弾いていたんだ。楽しかったなあ。高校に入学して仲間と離れ離れになっちゃって、去年はしていなかったけどね」

「それじゃあ、こっちでも軽音楽部に入部すれば良いじゃん。こう見えて私も美郷高校軽音楽部のOGだからね」

「そうなんだ。ショーコちゃんがバンドをやっていたなんて初めて聞いたなあ」

 ショーコは親戚の中でも一番歳が近く、色々と相談には乗ってもらっていたが、お互いの自宅が近くにあったわけではなく、それほど頻繁に会っていたわけではなかったから、ナオは、ショーコが美郷高校に通っていたこととか、軽音楽部でバンドをやっていたことは、今日、初めて知った。

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