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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第六章 強まる絆
58/73

09

 二人は、駅前のファミレスに入った。

「そういえば、俺、今日の晩飯食いそびれていたんだった。水嶋も食べてないんだろ? 一緒に食べようぜ」

「あっ、でも、家に用意しているはずだから」

「そうか。……それじゃあ、いつもどおり、俺だけ食べちゃって良いか?」

「はい、どうぞ」

 注文が終わり、ウエイトレスが下がって二人きりになると、ナオは鞄からプレゼントを出した。

「あ、あの、佐々木君。誕生日……おめでとう」

 朝からずっと楽しみにしていたはずなのに、いざプレゼントを渡す時になったら、やっぱりちょっと照れくさくて、ナオは、うつむき加減の顔を赤くしながら、両手でテーブルの上にプレゼントを差し出した。

「あっ、ありがとう。……開けて良いか?」

「う、うん。ちょっと、雨に濡れちゃったけど……」

 確かに、ラッピングがちょっと乱れていたが、カズホは、そんなことは気にしていないように丁寧に箱を開けた。

 中にはミニチュアのコントラバスが付いたストラップが入っていた。

「佐々木君にぴったりかなって思って……」

「ありがとう、水嶋。……そっちはなんだ?」

 カズホがリボンを掛けた袋を指さした。

「こ、これは、クッキーを作ってきたんだけど、雨に濡れちゃったから……」

 カズホがリボンをはずして袋の中からクッキーを取り出すと、クッキーもコントラバスの形をしていた。

「どれどれ」

 カズホはクッキーを一つ口に入れた。

「あっ、佐々木君。ベトベトしてて美味おいしくない……」

美味うまいじゃん! 雨に濡れててもこんなに美味いのなら、雨に濡れていないクッキーを食べてたら、今頃、俺のほっぺたが落ちていたかもな」

「そ、そんな……」

「水嶋」

「はい」

「本当にありがとうな。今までもらった誕生日プレゼントの中で一番嬉しいよ」

「……う、うん」

 カズホのお礼の言葉と笑顔は、今日、色々あったことをすべて忘れさせてくれた。ナオは、ちょっと涙ぐみながらも、カズホに微笑みを返した。

「あっ、そうだ。水嶋、携帯持ってる?」

「はい」

「電話番号とメアド交換しとこうぜ。今日みたいなことがないようにさ」

「えっ」

「駄目か?」

「駄目じゃないです」

 ナオの携帯についても、登録の作業は機械音痴のナオに代わってカズホがやってくれた。

「ほい。これでOK。電話帳には『佐々木一穂』で入れたけど大丈夫か? お父さんあたりからチェックが入るんじゃね?」

「大丈夫です。これでも親からは信用されていますから」

「おお、すげえ自信。それじゃあ、いかにも怪しい名前にしとくか。『佐々木権左右衛門』ってどうだ?」

「誰ですか、それ」

「それじゃあ、『佐々木小次郎』にしとくか?」

「ツバメ返しで返信するんですか」

「じゃあ『世界の佐々木』は?」

「電話番号に三が付いたら馬鹿になるんですか」

「水嶋。お前、突っ込みのセンスも洗練されてきたなあ」

「そ、それって女の子に対する褒め言葉ですか~」

「あははは」

「うふふふ」

 二人は一緒に吹き出した。

 注文した食事と飲み物が運ばれて来てから、カズホがナオに言った。

「俺のメアド、女の子で知らせているのは水嶋だけなんだ」

「えっ」

「今年の初めくらいだったかな。前のメアドがなぜか、ばれちゃってさ。知らない女の子から山のようにメールが来るようになったから、メアド変えたんだよ」

「レナちゃんも知らないんですか?」

「ああ、電話番号は知っているけど、変更後のメアドは知らせていない。今のメアド知っているのは、マコトとハルだけかな」

「そ、そうなんですか」

「もっとも、その二人からメールが来たことはないけどな。マコトは、電話の方が早いって絶対メールを使わないから」

「武田君らしいです」

「だから、俺もあんまりメールってやったことはないんだけど、水嶋にはたまに送っても良いか?」

「は、はい。でも、私も、どちらかというと電話派なので、あまりメールとかしないですけど……」

「そうだな。水嶋とは、ドールで嫌というほど話しているから、メールを使うのは、今日のような緊急の時くらいかな。やっぱり、直接、相手の声を聞きながら、何かを伝える方が良いよな。もっと言うと、直接、会って話すのが一番だな」

「はい。佐々木君とは顔を見ながら話がしたいです。……あっ」

 言った後で、ナオは何だかすごく恥ずかしくなってしまった。

「んっ、どうした? すごく顔が赤いけど……。熱でも出てきたんじゃないか?」

「いいえ、……大丈夫です」

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