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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第六章 強まる絆
57/73

08

 雨は、しとしとと降り続いていた。

 しばらくして、カズホが雨に濡れながら、楽器店に向けて、走ってやって来ているのが見えた。

(佐々木君!)

 ナオは、クリーニング店の軒先から通りに出て、カズホを待った。

 カズホはナオに気がついたようで、ナオの方に向きを変えてやって来た。

「何やってんだ、水嶋! 濡れているじゃないか!」

 ナオは、カズホの姿が見えただけで、嬉しくて軒先から飛び出していたことに気がついていなかった。カズホはナオをクリーニング店の軒先まで押し戻した。

 二人は薄暗いクリーニング店の軒先で見つめ合った。

 走って来たカズホは息が切れていたが、初めに口を開いたのはカズホの方だった。

「水嶋、悪い。約束をすっぽかしてしまって」

 カズホは、ナオに頭を下げた。

「あっ、良いんです。ちゃんと会えたから……」

「水嶋……。何でドールに来なかったのか、俺を責めないのか?」

「佐々木君のことだもん。きっと何か理由があったんだよね?」

「あ、ああ。実は、お袋が交通事故に遭って」

「えっ! だ、大丈夫なんですか?」

「ああ。今まで病院にいたけど、ピンピンしているよ」

「そうだったんですか。……ごめんなさい。そんな時に」

「何言っているんだよ! 水嶋が謝るようなことは何もないじゃん!」

「でも、私、佐々木君のことを、ちょっと疑ってしまって……」

「疑うって?」

「誕生日プレゼント、いっぱいもらってたから、私のプレゼントなんかもういいやって。だから……」

「俺、昨日言ったはずだぞ! 水嶋がくれるプレゼントは何だって嬉しいって……」

「……」

「ずっと待っててくれたのか?」

 ナオはコクリと無言でうなずいた。

「このままじゃ、風邪を引いちゃうぞ。どっか、暖かい所に行こう。ちょっと、ここで待っててくれ」

 カズホは、雨の中を走って、向かいの立花楽器店に入って行った。


 カズホは、リペアコーナーに行き、チーフの川村に今日はバイトを休ませてくれと頼んだ。

「ああ、良いよ。今、丁度、暇だからな」

 調整待ちの楽器がいくつも置いてあったが、川村はいつもどおりの調子で答えた。そして、濡れているカズホを見て、リペアコーナーの壁に立て掛けていた傘を指さしながら言った。

「カズホ。お前、傘、持ってないだろ。俺の置き傘だから、それ持ってけ。俺はもう一つ持っているから。その傘、大きいからな。二人で入っても大丈夫だぜ」


 楽器店から出て来たカズホは、黒地に黄色で「川村」と大きく書かれた傘を差していた。

「バイト、休みをもらってきたよ。水嶋、とりあえず行こう」

「あの、傘は一つだけなんですか?」

「そうだよ。借り物だからな。さあ、早く! 身体が冷えちゃうだろ」

「は、はい」

 ナオは、カズホの傘に入って一緒に歩き出した。

「とりあえず、駅の方に行ってみよう。……水嶋、もっとこっちに寄らないと濡れちゃうぞ」

「は、はい」

 ナオは顔を真っ赤にしながらも、カズホに寄り添うと、カズホがナオの方に傘を差し出した。

「あっ、あんまり私の方に傘を持ってくると佐々木君が濡れてしまいますよ」

「俺は大丈夫だって」

 ナオは、雨に濡れて冷えていたはずなのに、カズホのやさしさが伝わってきたのか、ポカポカになってきた。

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