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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第六章 強まる絆
53/73

04

 しばらく躊躇ちゅうちょしたナオであったが、他に選択肢がないと知り、カズホの背に身体を預けた。

「すみません」

「よいしょっと! ……あれ、水嶋ってやっぱり軽いんだな」

「そ、そんな……」

 ナオは顔を真っ赤にしながら、カズホにおんぶされた。

「カズホ。カズホがばてたら、俺が代わってやるからな」

「マコト、なんか下心があるんじゃないの?」

「おい、レナ! なんで純粋に友を思う俺の気持ちを邪推するかな」

「はいはい。とにかく行きましょう。カズホ、OK?」

「ああ、大丈夫だよ」

 六人は、再び歩き出した。マコト達は、ナオ達を後ろから見守るように歩いていた。

 ナオは、スリムに見えるカズホの背中が意外に広いことに気づいた。また、カズホの身体か髪か分からなかったが、ほのかに良い香りがしていた。

「あの、佐々木君」

「んっ、どうした?」

「本当にごめんなさい」

「気にするなよ。それにさっきも言ったけど、水嶋って軽いから苦にならないし」

「そ、そんなに軽いですか?」

「ああ。やっぱり、背中からなんか漏れているんじゃないのか?」

「そ、そんな……。あっ、でも注意力が漏れていたかも知れません」

「ははは」

 その時、ナオは、周りを歩く生徒達の視線に気がついた。

 妬みや興味本位に満ちた視線がナオに向けられていた。中にはヒソヒソと話しながら通り過ぎていく生徒達もいた。ナオは怖れていた「四面楚歌」に陥っているような気持ちになってしまった。

「マコト」

「んっ?」

 ふいに、レナがちょっとだけ速度を速めてカズホの前に出たかと思うと、そのままカズホの前を歩き出した。

 それだけで、マコトもレナの意図が分かったようだった。マコトもカズホの左側に行き、カズホと並んで歩き出した。二人の行動を見て、ハルも自らカズホの右側に行き、カズホと並んで歩き出した。カズホの後には、ミカが引き続き歩いていた。みんながカズホを取り囲むようにして歩き出した。特にマコトの威圧感は効果抜群だった。

(みんな……)

 ナオは、変な中傷は許さないという無言の盾がナオを守ってくれているように見えた。

 ナオが涙ぐんでいたのは、もちろん足が痛かったからではなかった。

 「四面」で鳴り響いていた「楚歌」はミュートされた。少なくとも、ナオがカズホにおんぶされたいがために、「わざと」足をくじいたなどという根拠のない噂が広がることはなかった。

 結局、ゴールまで、カズホがナオをおんぶして行き、六人は一緒にゴールをした。

 ゴール後、ナオは保健室の先生に右足を診てもらったが、軽い捻挫ということで湿布とテーピングをしただけで済んだ。

 翌日の土曜日からゴールデンウィークが始まったことから、ナオはミエコ達からの質問攻めを回避することができた。


 ゴールデンウィーク中、ナオは、居づらい自宅にずっと居たこともあり、また、カズホと会えなかったことから、ずっとブルーな気分だった。

 しかし、ゴールデンウィークが明けて、いつもどおりの日常が始まり、ドールでのカズホとのおしゃべりタイムが復活すると、そんな気分はすぐに吹き飛んでしまった。

 カズホと会えないだけで辛い思いをするということを再認識したナオは、カズホに対する想いをますます強めていった。

 レナから言われたことも後押しをした。

(『あなたはカズホに選ばれた女の子なのよ』とレナちゃんは言った。本当にそうなんだろうか? でも、それが本当だったら……嬉しい)

 いつもどおり、そんな時には、ナオの頭に例の呪文が響き渡った。だが、今のナオは、その呪文に妄信的に束縛されることはなかった。その呪文を打破しようとしている自分がいることに気がついた。カズホやレナの言葉に勇気付けられていることは明らかだった。

 しかし、ナオが、それまでの自分と別れを告げて、本当の自分に変わることができるには、まだ何かが足りなかった。

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