03
もともと運動が得意ではないナオは、中学の時のマラソン大会でも最終組でゴールしたほどだった。
今回は、レナ達と話しながら、のんびり歩いてきたが、やはり、十キロを越えると疲労はピークに達したようだった。
(みんなに迷惑を掛けちゃいけないし、頑張らねば~)
自分を励ましながら黙々と歩いていたが、次第に足が上がらなくなっていた。残り一キロを切った地点に差し掛かった時、ちょっとした窪みに足を取られて、バランスを崩した。
「あっ!」
ナオは、右横を歩いていたカズホの方に転びそうになったが、咄嗟にカズホがナオを抱きかかえてくれた。
「大丈夫か? 水嶋」
「ごめんなさい。痛たっ!」
ナオの右足首に激痛が走った。
「どうした?」
「足が……」
すぐ前を歩いていたレナが気がついて飛んで来ると、ナオの足下にしゃがんだ。
「ナオちゃん、どっちの足が痛い?」
「右が……」
「靴を脱がせるよ。カズホ! ナオちゃんを支えてあげて!」
「分かった」
カズホは、ナオの左側に回って、後ろからナオの両肩を両手で支えてくれた。ナオも左手でカズホの肩に手を掛けて左足だけでバランスを保つようにして立った。
レナが、ナオの右足の靴と靴下を脱がせて、内出血や腫れが無いかを確認していた。
「ちょっと動かすよ」
「あっ、痛い!」
「ちょっとくるぶしが腫れてきているみたい。たぶん捻挫だと思う。骨にまでは異常は無いと思うけど……」
マコト達もナオの周りに集まって来た。マコトが心配そうにナオに声を掛けた。
「大丈夫か? 水嶋」
「ごめんなさい。大丈夫です。命に別状はないと思いますから」
「いや、そこまで大袈裟に心配はしてねえけどよ」
ナオのボケは緊迫した空気を和らげたようだ。
「しかし、カズホ、どうする? ここから棄権するか? たぶん、ゴールはそんなに遠くないから、俺たちが先に行って先生に伝えてこようか?」
「そうだなあ……」
「あの、私のために皆さんにご迷惑をお掛けするわけにはいきませんから、皆さんは先に行ってください」
「それじゃ、ナオちゃんはどうするつもり?」
「大丈夫です。休み休み歩きます。佐々木君には申し訳ないですけど」
「俺のことなら心配しないで良いから」
「私達のことも心配しないで良いから。ここまで一緒に歩いて来たんだから一緒にゴールしようよ」
「そうだな。そうしようぜ。水嶋」
つい最近知り合ったばかりなのに、ナオを仲間として接してくれて、けっして見捨てようとしないマコトやレナの態度に、ナオは感激しつつ、感謝の気持ちで一杯になった。
「すみません、皆さん」
「しかし、休み休みっていっても、すぐには歩かない方が良いんじゃないか?」
「そうね。ちゃんと治療しないで歩くと悪化しちゃうかも知れないし……」
マコトとレナが、ナオのことを心配して話していたが、すぐに、レナは何か閃いたようだった。
「そうだ!」
みんながレナに注目すると、レナは小悪魔的な笑顔を見せてカズホに言った。
「残りは一キロを切っているくらいだから、カズホがナオちゃんをゴールまでおぶってあげたら? ペアなんだから」
「えっ、俺が水嶋を……」
「そ、そんな! 佐々木君にご迷惑を掛けるわけにはいきません!」
「全然、迷惑じゃないから。ねえ、カズホ?」
レナはカズホの返事が分かっていたようだ。
「ああ、全然、迷惑なんかじゃないよ」
「決まり! そうしよう」
「水嶋、それじゃあ」
カズホがナオに背を向けてしゃがみ込んだ。
「でも……」
「ナオちゃん。早くしないと、みんなのゴールがそれだけ遅れてしまって、そっちの方がみんなの迷惑かもよ」
レナがやさしく諭すようにナオに言った。




