04
レナは、しばらく優しく微笑みながらナオを見つめていたが、一旦、視線をそらせた後、再び、ナオを見つめながら話を続けた。
「自分が可愛くちゃいけないというのは分かったけど、それと軽音楽部に入部を決められないこととは、どういう関係なの?」
「それは、……分からない」
「じゃあ、私が考えていることを言ってみましょうか? 当たっているような気がするんだけどな」
「えっ、どんなこと?」
「あなたも気がついているのよ。ひょっとしたら、カズホが好意を持ってくれているんじゃないかってね」
「えっ」
「もし、軽音楽部に入って、カズホと一緒にいる時間が長くなってくると、カズホと特別な関係になるかもって。でも、今のままの格好が、バンド活動やカズホの彼女としてふさわしいとはいえないってことも分かっている。つまり、水嶋さんもカズホのことが好きなのよ。でも、今のままの自分を変えることができないから苦しんでいるのよ」
「……!」
(私が佐々木君のことを…………。違うって言えない)
レナとカズホが話している場面を見ただけで涙したこと。ドールでカズホと話をすることができないだけで寂しさに襲われること。カズホの笑顔を見たいといつも思っていること。それは、カズホが好きだから。そう言えば全ての説明がついた。本当は分かっていたのに、呪文に苦しめられないように、自分の気持ちに蓋をして考えないようにしていたのかも知れなかった。
「水嶋さん」
「はい」
「水嶋さんが、自分の悩みを打ち払うことは簡単よ。その格好を止めるだけ。誰に遠慮をすることもないわ。お母さんにだって妹さんにだって。ありのままの水嶋さんになれば良いじゃない」
「ありのままの私……」
「そう、それに、私を含めて、学校の他の女子にだって遠慮をすることはないよ。だって、あなたはカズホに選ばれた女の子なんだから」
「……!」
「もっと自分のことに自信を持って。ずっと自分のことを『可愛くない』って思い込んできたから、本当に自分は可愛くないって思っているのかも知れないけれど、私に言わせれば、水嶋さんみたいに可愛い人は見たことないよ」
「そ、そんな……」
「その眼鏡を取って髪をおろしてみる。たった、それだけで自分で作った殻から抜け出せる気がするけどなあ」
「……」
「今、私が言えることはこれくらいかな。……ごめんね、えらそうなこと言って」
「ううん。……でも、立花さんの言ったとおり、自分のこの気持ち、初めて口にして言ってみたら、何だか、ちょっと身体が軽くなったみたい。……ありがとう、立花さん」
ナオのお礼の言葉に対して、レナがクスリと笑った。
「ねえ、考えてみれば私達、友達っていうような付き合いもまだしていないのに、いきなり悩み事を打ち明け合ったりしているんだよね。なんか不思議だね」
「確かに。ふふ、そうですね」
「水嶋さん。もう『立花さん』なんて他人行儀に呼ばないで。友達が呼んでいるように『レナ』って呼んで。お願い」
「それなら、私のことも『ナオ』って呼んでください」
「分かった。……ナオちゃん、今日の私のお願い、今すぐ返事をくれる必要はないからね。ナオちゃんにも解決しなければいけない課題が一杯あるんだもんね」
「うん。……レナちゃんって本当に優しい人なんだね。こんな優しいレナちゃんの良さが分からないなんて、佐々木君は何を見ているのかな」
「ほらほら。また、そうやって自分を置いといて人のことを心配しようとする。しかもそれを本心から言っているから、自分を苦しめることになるのよ。……でも、ナオちゃんのそんなところがカズホは好きなんだろうな。私みたいに裏表がないところがね」
「えっ、レナちゃんだって裏表ないですよ」
「うふふふ……。あ~あ。ナオちゃんともっと早く出会ってたらなあ。ナオちゃん、なんで一年の時からうちの高校に来なかったの?」
「え~! そ、そんなこと私に言われても……」
ナオは、いきなりそんなことを言われて困ってしまい、俯いて、もじもじするしかなかった。
「うふふふ。ナオちゃんって、本当に可愛い!」




