03
レナは両手を合わせてナオを見つめた。
しかし、ナオには、まだ呪文を破る力はなかった。
「私は、……駄目です。立花さん。佐々木君には立花さんのような女の子がふさわしいんです。私なんか駄目です」
「どうして駄目なの? 水嶋さん。前にも訊いたけど、どうしてそんな格好をしているの? その格好が関係しているのかしら?」
「そ、それは……」
「お洒落に無頓着な感じにしているんだけど、違うよね?」
「えっ」
「水嶋さんの髪。ちゃんと手入れされていて綺麗だし、制服や靴なんかも清潔にされている。本当にお洒落に無頓着な人って、そんなところに気を配らないものよ」
「……」
「水嶋さんのその格好、わざと可愛くないようにしているとしか思えないんだけどなあ。そのことと、水嶋さんが軽音楽部に入ることができないこととは、何か関係があるの?」
「それは……」
「私ね、今日、ずっと悩んでいたことを、全部、水嶋さんにぶちまけちゃって、何だかすっきりしたんだ。自分一人で、ずっと悩んでいたのが馬鹿みたいに思えるほどにね。水嶋さんにも何か悩みがあるのなら、私に話してみない? 私が解決できるようなことじゃないと思うけど、人に話してしまうことだけで、気分が軽くなることだってあると思うよ。……もちろん、無理にとは言わないけどさ」
「立花さん。……ありがとう」
ナオは、正直に自分をさらけ出し、言いたいことが言えるレナのことを羨ましく思った。また、そんなレナの態度に感動もして、自然と涙が流れ出てきた。
「……そうだよね。立花さんがちゃんと話をしてくれたんだから、私もちゃんと話す」
「うん」
「実は、……私、今のお母さんとは血が繋がっていないの」
「えっ」
「私を生んだお母さんは、私が小学一年生の時に病気で死んでしまったの。今のお母さんは、お父さんが再婚した相手」
「そうなの」
「私が小学四年生の時に妹が生まれたの。その時から、私は可愛くてはいけないんだと自分で決めて……、思い込んで……」
「……水嶋さん」
「お母さんと、生まれてまだ半年くらいの妹と三人でお出掛けしていて、事情を知らない近所の人から、妹に対して『お姉ちゃんがこんなに可愛いんだから、この子もさぞ可愛くなるんでしょうね』って言われた時、お母さんの笑顔が引きつったような気がしたの。ううん、分かっているの。お母さんは優しくて、私と妹に分け隔てなく接してくれる、とても素敵な人なの。私の勝手な思い込みが、お母さんの笑顔を引きつらせて見せたんだってことは分かっているの。でも、……私は妹より可愛くちゃいけないんだって、自分で思い込んでしまって」
「……」
「それから、私、お洒落に無頓着な振りをし始めたの。髪型にもファッションにも無関心な女の子でいれば可愛いはずがないって思って……」
「だからなのね。その髪型」
「うん。この三つ編みは小学校四年生からずっと……。小学校六年生の時には、近視になって眼鏡を掛けることになったんだけど、一番、女の子が掛けそうにない、今と同じようなデザインのものを選んだの」
確かにナオが掛けている眼鏡は、男性が掛けるような銀縁眼鏡だった。
「私が中学生になる時、丁度、お父さんが転勤になって福岡に行くことになったの。お母さんも、たぶん気づいていたんだと思う。自分と妹のことで私が悩んでいるって。だから、お父さんとお母さんが相談して、丁度、中学生という思春期の頃だということもあって、私はお母さん達と別れて、お父さんと一緒に福岡に引っ越すことになったの」
「別れて暮らしてみてどうだった?」
「なんか、お父さんを取り戻したって感じで嬉しかった。本当のお母さんはいないけど、本当の家族だけで生活しているって感じだった。学校で友達もできて、女の子同士でバンドを組んで活動したり、中学校時代は、本当に楽しかった」
「中学校時代もその格好ですごしたの?」
「別れて暮らしているっていっても、夏休みとか時々は行き来もあるし、お父さんもいつまた東京に戻ることになるか分からなかったから、思い切って変わることまではできなかった」
「それで、この四月になって、また東京に戻って来たってことなんだ」
「うん。お父さんが本社勤務になって、また四人で暮らすことになったの。お母さんは相変わらず妹と分け隔てなく接してくれるけど、やっぱり私は、自分が作った壁を乗り越えることができなくて……。家にいると、なんだか息が詰まってしまって……」
「だから、学校が終わってからも、ドールで道草してたんだ」
「うん」
「そうか。……なんか辛いことを思い出させちゃったね。ごめんね」
「いいえ」
レナの慰めの言葉には、繊細で優しいレナの気持ちが溢れていて、ナオは本当にレナのことが好きになった。




