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「私、中学の時からマコトとずっと一緒にバンドをしてきて、……まあ、マコトとは、そういう関係にはならなかったけど、高校に入って、マコトと一緒に軽音楽部に入部したら、カズホがいた。私、一目見て好きになった。演奏を聴いて、もっと好きになった。そんな気持ちは初めてだった。寝ても覚めてもカズホのことばかり想ってた。我慢できなくて、私、カズホに告白したの。『好き』って」
「……」
「でも、カズホからは『今は、バンドに夢中になっているから、付き合うなんてことは考えられない』って言われて……。たぶん、カズホなりの優しさで言ってくれんたんだろうけど、はっきり言って、振られちゃったわけ。それで軽音楽部に居辛くなって、休部届け出して、ずっとお休み中ってことなの」
「……立花さん」
「私って、負けず嫌いだからさ。全然、傷も負っていないような平気な振りをして、カズホには『友達として、これからも話をさせて』って言って、友達としての付き合いは何となく続いているんだけどね」
「……」
「でもね、この一年間、本当は、ずっとバンドをやりたくて仕方がなかった。私って、物心付いた頃から音楽に囲まれて生活してきたから、音楽は私の体の一部になっているって言っても良いくらい。カズホやマコト達とバンドをやりたいって、ずっと思っていたの。でも、やっぱり吹っ切れなくて……。でも、この前、ドールで話した時に閃いたのよ。水嶋さんがカズホのバンドに入ってくれたら、私もまた一緒にできるかなってね」
「あの、どうして私なんですか? 私以外にも楽器ができる女の子はいるはずです。私じゃなくても良いんじゃないですか?」
「あなたじゃなきゃいけないの。だって、……カズホは、あなたのことが好きだと思うから」
「えっ!」
またまた衝撃の告白だった。しかも、それはレナ自身のことではなく、ナオに対するカズホの気持ちについてであった。
しかし、「好き」という言葉は、呪文が許してくれなかった。
「……そ、そんなはずはないです、絶対! ……佐々木君が、私みたいな、可愛くない女の子を好きになるはずありません」
「ううん。私、ドールでの二人の会話を聞いて、すぐに分かったわ。そうね、……まだ、好きってところまで行っていないのかも知れないけど、あのカズホが水嶋さんに対して普通に話しているのを聞いて、少なくてもカズホは水嶋さんに対して好意は持っているなって感じたの」
「普通に話しているって?」
「カズホってね、女の子に対してまともに話ができないのよ。どこかぶっきらぼうで……。でも水嶋さんには、……そう、マコトと話す時みたいに普通に話していたの」
そのことは、ナオ自身も感じていたことだった。しかし、それはカズホ自身から話しやすくて面白い女の子だと言われて話をしているだけで、それ以上の意味を考えたことはなかった。
「それって、たぶん、私が女の子って意識されていないっていうことじゃないでしょうか?」
「うん。ある意味、そうかも知れない。少なくとも、カズホがこれまで関わってきた女の子と水嶋さんは違うのかもね」
「……よく分からないです」
「私もカズホのすべてを知っているわけじゃないから正確じゃないかも知れない。でも、ドールで、私が水嶋さんに質問したことに対して、全部、カズホが答えていたでしょう。まるで水嶋さんを守っているみたいにね。カズホは水嶋さんに対して好意は持っているはずよ」
「……」
「そんな水嶋さんが同じバンドにいてくれたら、私、過去のことは忘れて音楽に専念できそうな気がするの。つまり、……うまく言えないけど、カズホはもう水嶋さんのものだって思うことで、私は、音楽を愛するバンドメンバーとして、カズホと接することができそうな気がするの」
「立花さん。立花さんは、まだ、佐々木君のことが好きなんじゃないんですか?」
「吹っ切れていないといえば嘘になる。そう、まだカズホが好き。でも、カズホは私みたいな子より、たぶん水嶋さんのような、どちらかというと、後から黙ってついて来てくれるような女の子が好きなんだよ。私って、言わなくても良いことをつい言っちゃうことが多いからね」
「立花さんは、本当にそれで良いの?」
「振り向いてくれない相手をずっと待つことは、私にはできない。それに、カズホのベース、マコトのギターをバックに歌いたいという欲求を抑えつけることは、もうできないかも知れないって、最近、特に感じてきているの。……どう、水嶋さん。私のお願い、聞いてくれないかな?」




