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マコトとハルと別れて、今日もカズホはドールにやって来た。
カズホは、ハルが入部してくれたことをいち早くナオに知らせたかった。
「よう」
「あっ、こんにちわ」
「良い知らせがあるんだ! 前に、ここでマコト達と話していたドラムをやってたという奴が軽音楽部に入部してくれたんだよ」
「本当ですか! 良かった~。良かったですね」
まるで、自分のことのように喜ぶナオを見て、カズホは何だか更に嬉しくなってしまった。
「あ、ああ。……あのさ、水嶋は、まだ一緒にする気になれないか?」
「えっ、……う、うん」
一瞬にしてナオの笑顔は消えてしまった。
「そんなに遠慮することはないと思うけどな。……それとも俺たちと一緒にしたくない理由でもあるのか?」
「えっ、そ、そんなことはないです。ただ、佐々木君達と一緒にバンドをやる資格がないっていうか……。駄目なんです」
「何だよ。資格って?」
「私、……私は、佐々木君とドールで会って話をすることだけしか許されないんです。それ以上、佐々木君と一緒にいたら、もっと苦しくなってしまうはず。だから……」
「意味がよく分からないのだが……。でも、水嶋が言いたくないのなら仕方がないな。……ごめん。入部を強引に勧誘しないって自分で言っておきながら、……悪かった」
「いえ。佐々木君が悪いんじゃないんです。悪いのは私なんです」
「水嶋は、いつも自分を責めているような気がするんだけど……」
「そうかも知れないです」
「あのさ、水嶋。水嶋が一緒にバンドをやってくれるために俺にできることがあれば、どんな協力もするからさ。俺にできることがあったら、何でも言ってくれ」
「佐々木君……」
ナオの目から、ぽろりと一粒、涙がこぼれ落ちた。
「あ、あの、俺、また、なんか変なこと言ったか?」
ナオに泣かれて、カズホも狼狽えてしまった。
「ううん」
「とにかく涙を拭けよ」
カズホはズボンのポケットからハンカチを出して、ナオに渡した。
「ありがとう」
ナオは眼鏡をはずして涙を拭いた。
この時、眼鏡をはずしたナオの顔を初めて見たカズホの胸に、今まで女性に対して抱いたことのない、心がちょっと締め付けられるような感覚が、波紋のように緩やかに広がっていった。
ナオは再び眼鏡を掛けて、涙を拭いたハンカチを裏返しながら、カズホにハンカチを返した。
「ごめんなさい。何か、嬉しくて……。でも、これは私が自分で解決しなければならない問題なの」
「そうなのか」
「うん。……本当は、私も佐々木君と一緒にバンドをしたいって思っているの」
「……」
「でも、どうしても私の中にそれを許してくれない私がいて……。私も、ちょっとずつ頑張ってみる。だから、……もうちょっと待っててください」
「ああ、分かった」
カズホは、今まで音楽に対して妥協をしたことのない自分が、ナオのキーボード演奏をまだ聴いたことがないのに、ナオと一緒にバンドができる日が早く来ることを願っていることに驚きを感じた。
(俺は水嶋と一緒にバンドをしたいだけなんだろうか? それとも……)
ある意味、ナオと同じように異性を避けてきていたカズホも、今、ナオに対して抱いている感情が理解できなかったのかもしれなかった。




