12
結局、三人は軽音楽部の練習時間が終わるまで、みっちりとセッションをしていた。
練習時間が終わり、北岡は、マコトとカズホと一緒に下校した。
三人の話は尽きることなく、今は、マコトが軽音楽部の不文律なるものを説明していた。
「うちの軽音楽部は伝統的に学年ごとにバンドを結成するっていう不文律があるんだよ。だから、メンバーが足りなくなっても、学年の違う部員をメンバーにすることはできないんだ」
続けてカズホが説明を補足する。
「バンドってさあ、上下関係で縛られているものじゃあないだろ? 本人達は意識していなくても、上級生と下級生が一緒にバンドをすれば、やっぱりどっかで上下関係が出て来ちゃうんだよ。各パートが自由に、かつ、まとまってこそがバンドだからな」
「そうだね。確かに」
「今の三年生バンドはそれで活動休止になっているんだ。俺たちも同じ運命になりかねなかったんだけどな」
「そのせいで、副部長だったマコトが部長になって、権力を笠に着て横暴しているんだよ」
「なんだと! 誤解されるようなことを言うなよ!」
お互いに話す言葉は悪いが、カズホとマコトの間には絶対的な信頼関係が構築されていることは、北岡にもすぐに分かった。
「ははは。二人は本当に羨ましいくらい仲が良いんだね。二人はつきあいは長いの?」
「高校に入学して軽音楽部で知り合ってからだよ」
「まあ、東中学に、めちゃくちゃギターが上手いヤンキーがいるっていう噂は聞いていたけどね」
「誰だよ。そのヤンキーってのはよ! それなら、北中学にも、めちゃくちゃベースが上手い女たらしがいるって噂があったけどな」
「誰が女たらしだよ!」
「ははは。良いなあ。そんなに言い合える仲なんて」
北岡は、中学の時のバンドメンバーの関係を思い出して、本当に二人が羨ましく思った。
「何言ってるんだよ。北岡もこれから俺達の仲間だろう」
「そうそう。……そうだ! 俺のことは、マコトが呼んでいるみたいに、カズホって呼んでくれよ。佐々木君なんて言われるとなんか他人行儀だしな」
「おう、そうだよな。それじゃ俺もこともマコトって呼んでくれ。仲の良い奴はみんな、そう呼んでいるし」
「仲の良い奴って……。う、うん。分かったよ」
「北岡って名前は何ていうんだ?」
「晴彦だよ」
「じゃあ、北岡のことは『ハルヒコ』って呼ぶか?」
「なんか呼びにくいから、『ハル』で良いや」
カズホが提案した「ハルヒコ」を勝手に省略をするマコトであった。
「なあ、ハル!」
マコトは、北岡、否、ハルの肩を抱きながら、そう呼び掛けた。




