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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第四章 交差する想い
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 翌日。

 北岡は、朝から落ち着かなかった。マコトとカズホのことが気になって仕方なかった。

(僕には、今まで本当の友達がいただろうか?)

 中学校の時のバンドのメンバーや同級生達と友達として付き合いはしていた。しかし、北岡が本当に困っている時に、手を差し伸べてくれた者がいただろうか?

 今まで付き合いすらしていないのに、同じ音楽を愛する仲間ということだけで、自らの危険もかえりみず、自分を助けるために喧嘩をしてくれたマコトとカズホの気持ちに応えたかった。

 しかし、そんな恩返し的な気持ちで軽音楽部に入部しても、二人は喜ばないことも分かっていた。

(二人の演奏を聴いてみたい。その上で考えよう)


 放課後。

 北岡が軽音楽部の部室に行くと、丁度、マコトとカズホが部室前の廊下で立ち話をしていた。

「武田君。佐々木君。昨日はどうも」

「おう、北岡。調子はどうだ?」

 カズホが心配そうに北岡に訊いてきた。

「うん、大丈夫。あの、武田君」

「なんだ?」

「これから練習するのかい?」

「おう、そろそろな」

「あの、ちょっと見学させてもらっても良いかな?」

「えっ、……お、おう。どうぞどうぞ。歓迎するぜ。と言っても、俺とカズホの二人しかいないけどな」

 北岡は、マコト達に続いて部室に入り、椅子に座って、マコトとカズホのセッティング風景を眺めていた。

 マコトは黒色のストラトタイプのギターを、カズホはナチュラルウッドの五弦ベースをそれぞれケースから出し、素早くチューニングを済ませ、音色や音量を調整していた。

 久しぶりにアンプを通したギターとベースの音を聴いて、北岡は、中学校時代のバンドの練習風景を懐かしく思い出していた。そして、何となく二人の背後にあったドラムセットを見つめていた。

 すると、その様子を見ていたのか、カズホが北岡に言った。

「北岡。ぼろっちいけど一応ドラムセットもあるから適当に叩いてみないか?」

「えっ、でも……」

「見ているだけなんてつまんないだろ。俺とマコトで適当に弾くから合わせてみてよ。お遊びでやってみよう」

「わ、分かった。ちょっと合わせてみるだけ……」

 北岡は、ドラムセットに座り、椅子の高さ、スネアやタムの角度を慣れた手付きで調整していった。家にある練習用ではなく、生ドラムに触るのは久しぶりだった。スティックは、フロアタムにぶら下がっていたドラムバックに入っていた。

「OK。マコト、行くぜ!」

「よっしゃあ!」

 まず、カズホがスラップでビートを弾き出した。

 すかさず、マコトが十六ビートのカッティングで合わせてくる。

 この二人が弾くギターとベースから飛び出た音符がすごい勢いで部室中を駆けめぐり、うねりとなって北岡に襲い掛かって来た。

(すごい! ギターとベースだけなのに、このビート感!)

 北岡は、中学校時代のバンドの演奏を思い出していた。三年生になった頃には、北岡のドラム演奏に他のメンバーはついて来られなくなっていた。北岡自身も、本音では、もっと上手いメンバーと演奏したいと思っていたが、同級生達を見捨てて、別のバンドを組むほどの勇気もなかった。

 高校に入ってから、軽音楽部への入部をあっさりと断念したことも、自分が満足して演奏できるバンドを組むことはどうせできないと初めから諦めていたからかも知れなかった。

 しかし、今、マコトとカズホが生み出す音とリズムは、強烈なインパクトとなって、北岡が諦めかけていたことを引き戻そうとしていた。

 ドラムセットに座っていた北岡の左足も自然とリズムを刻み出した。

 北岡は夢遊病者のように知らず知らずのうちにスティックを握っていた。

 そして、ついに北岡は、せきを切ったように、ドラムを叩き出した。

 マコトとカズホも、最初はちょっとびっくりしているようだったが、満足げな表情を見せて演奏を続けた。

 今日、初めて合わせたとは思えないほどの一体感! そして躍動感!

 マコトとカズホが時折入れるアドリブにも、北岡は無意識のうちに反応していた。北岡は今まで聴いたことのない圧倒的な音の洪水に浸されながら、幸福感に包み込まれていった。

 演奏が終わると早速マコトが声を掛けてきた。

「北岡、やるじゃねえか! 気持ち良かったぜ。最高だよ!」

 カズホも笑顔で北岡に言った。

「ああ。派手さは無いけど、ビート感が最高に良いよ。北岡、一緒にやろうぜ」

「そ、そうかな」

「お願いするよ。ぜひ一緒にやってくれ」

「俺もだ。俺も北岡と一緒にやりたいよ」

「そんな。僕は、……僕は」

 今まで、人からお願い事などされたことのない北岡は困惑した。

 しかし、結論は北岡の中で既に出ていた。北岡は、立ち上がり、マコトとカズホの方を向いて、ちょっと頭を下げた。

「逆に僕の方からお願いするよ。君たちと一緒にバンドをやりたいよ。軽音楽部に入部させてくれ!」

「本当か?」

「決まりだな」

「やったぜ! 北岡、ありがとう!」

「い、いや~」

 普段、あまりお礼の言葉など言いそうにないマコトから「ありがとう」と言われ、北岡は照れてしまった。

「よし! もう一回合わせてみようぜ!」

「よっしゃあ!」

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