04
一時限目の授業が終わり休憩時間になると、金髪男子は、ふらっと教室を出て行った。
それを見計らったかのように、ナオの周りに女生徒が二人寄って来た。どちらかというとナオと同じような優等生タイプの二人だった。
「水嶋さん。私、大崎遥香。よろしくね」
ハルカは、天然パーマの髪をショートヘアにして、茶色のセルフレームの眼鏡を掛けており、落ち着いた物腰の女の子という感じだった。
「私は服部美恵子。よろしく」
ミエコは、髪を短いツインテールにして、顔に少しそばかすがある、ハルカとは対照的におきゃんな女の子という感じだった。
「よろしくお願いします」
ナオは立ち上がって二人にお辞儀をすると、ミエコが興味津々といった目をして、ナオに話し掛けてきた。
「水嶋さん、福岡から来たんだ?」
「うん。お父さんの転勤で引っ越して来たの」
「ふ~ん。でも博多弁じゃないんだね?」
「小学校までは東京にいたから」
「そうなんだ。それじゃあ、出戻りってことだね?」
「ま、まあ……」
「でも、水嶋さん、ラッキーだよね」
「えっ、ラッキー?」
「だって、いきなり佐々木君の後ろの席なんだから」
「佐々木君って?」
ミエコがにやにやと笑いながら無言で前の席を指差した。
「この前の席の、髪を金髪にしている人?」
「そうだよ。佐々木一穂君」
「あの、佐々木君の後ろの席ってラッキーなの?」
「だって、この学校で佐々木君のことを好きじゃない女子はいないんじゃない。ハルカだってファンでしょ?」
「もちろん」
ナオは、金髪男子ことカズホの整った顔立ちを思い出した。
(確かに、あんなに綺麗な顔立ちしているんだから、女子にモテモテでも不思議じゃないな。でも不良じゃないのかな?)
「私、髪を染めている人って不良というイメージがあって……」
ナオの疑問にミエコが頷きながら答えた。
「うんうん。確かに初めて見ると不良ぽいかも。でも、佐々木君は、授業もちゃんと出てるし、成績も悪くないし、遅刻早退もないし、人に迷惑を掛けることもしないから、あの金髪にしていることは先生達も黙認しているのかもね」
「そうなんですか。私、てっきり不良だって思い込んじゃって……」
ミエコはナオを慰めるように、ナオの肩をポンポンと叩きながら言った。
「仕方ないよ。それにどっちかというと佐々木君、ぶっきらぼうだしね」
「ぶっきらぼう?」
「男の子とはよく話しているみたいだけど、女の子とは余り話をしてくれないんだよね」
「でも、そんなぶっきらぼうなところがクールな感じで良いっていう女の子が多いのよ」
そう言ったハルカの頬はちょっと染まっていた。
(そんなに女の子にモテる佐々木君なら、私なんかには見向きもしないはずだよね)
ナオは、自分に対する朝のカズホの態度が納得できた。
「それに、佐々木君はバンドをやってて、それも格好良いんだよね」
「バンド……?」
「軽音楽部の二年生バンド。名前は伽羅」
ナオの方から訊いてみようと思っていた情報が労せずしてハルカからもたらされた。そしてミエコも嬉しそうに話を続けた。
「そうそう。佐々木君はベースをやってて、佐々木君とギターの武田君の二人はすごく上手いっていう話だし」
「そうなんだ」
(この学校には軽音楽部があるんだ。でも佐々木君のバンドしかないのかな?)
ナオは、もう一つ確認したかったことをハルカに訊いた。
「あ、あの、軽音楽部には女子だけのバンドってないのかな?」
「軽音楽部の二年生バンドは伽羅だけで、メンバーはみんな男子だよ。昔は女子も入っていたけど、今は辞めちゃっているし……。でも、どうして?」
「あ、うん。ちょっとね」
(そうか。軽音楽部は、佐々木君達のバンドなんだ。話もしてくれそうにないし、一緒にバンドをするのは無理みたい)