06
「二人とも、新たなビジョンを夢見るのは良いけど、肝心のメンバーの当てはあるの?」
「……」
「考える順番が逆なんじゃないの?」
「それじゃあ、レナにはメンバーの当てはあるのかよ?」
話の腰を折られたマコトが、不機嫌そうにレナに訊いた。
「もちろん。その情報があるから、今日、誘ったんじゃない。実は、うちのクラスに北岡君という男子がいるんだけど、中学の時には、ずっとバンドでドラムを叩いていたらしいんだ。北岡君と同じ中学校の女子に訊いた話によると、けっこう上手いらしいわよ」
「マジかよ。でも、どうして、今はバンドをやってないんだ?」
「本人曰くなんだけど、高校に入ってからは勉強を優先するように親に言われて、塾にも行かなきゃいけないからっていうことみたい」
「それじゃあ、東田なんかと同じじゃないか。希望薄なんじゃないか?」
マコトは、喜んだり落ち込んだりと忙しかった。
「でもね、この前、うちの楽器店でドラムセットをじっと見ていたの。なんか本当にやりたそうにね」
「マコト。とにかく今は背に腹は代えられない。とりあえず誘ってみるか?」
「そうだな。当たって砕けろか。……後は、ボーカルだな」
マコトが、レナの方を見ながら言った。
「レナ。久しぶりに一緒にやってみないか?」
「う~ん、どうしようかな」
ナオは、その時、レナがカズホの顔をちらりと見たことに気がついた。
「やっぱり、男の子ばかりのバンドじゃあ、なんか息が詰まりそうだし。色々と話せる女の子のメンバーがいればねえ」
「じゃあ、水嶋。やっぱり一緒にやってみないか?」
「えっ!」
カズホから急に話を振られて狼狽えたナオに、なぜか嬉しそうにレナが訊いてきた。
「水嶋さん、何か楽器できるの?」
「あ、あの……その」
「中学の時、バンドでキーボード担当だったらしい。前から誘っているんだけど、なかなか承知してくれなくてな」
突然、三人の話の中に放り込まれて言葉が出なかったナオに代わってカズホが答えた。
当然、マコトが食い付いてきた。
「マジかよ! いや、こんなこと言っちゃ失礼だと思うけど、イメージ的にはバンドをやってたというより『私、勉強にしか興味ありません』って感じなんだけど」
「しっかり言っちゃってるし。……でも、私も疑問だったんだ、水嶋さんのその格好。どうして、そんな髪型にしているの? 今時、中学生だって、そんな三つ編みにしたりしないわよ。わざとそんな髪型にしているとしか思えないんだけど……」
ナオは、レナから自分の悩みの核心をいきなり突かれて、更に動揺してしまった。
「えっ! それは……あの……その……」
他人には誰にも言ったことのない悩みを言えるわけもなく、ナオは俯いて、もじもじするしかなかった。
すると、すぐにレナが両手を合わせながら謝ってきた。
「ああ、ごめんなさい! 別に水嶋さんを虐めようとして言ったんじゃないの。答えにくいことだってあるよね。本当にごめんね」
ナオは、自分がレナの質問に答えていないにもかかわらず、逆に謝ってきたレナに申し訳なく思った。
「いいえ、こちらこそ」
ちょこんとお辞儀をしたナオが顔を上げると、レナはいつもの魅力的な笑顔でナオを見つめていた。
一方、マコトは千載一遇のチャンスと言わんばかりに、ナオを勧誘してきた。
「水嶋、ぜひ軽音楽部に入ってくれよ! 俺も今までキーボードと一緒にバンドを組んだことがないから、どんな感じになるのかやってみたいんだよ」
「この前の新入生歓迎ライブで佐々木君と武田君の演奏を聴いたけど、とてもついて行けないし、絶対、ご迷惑を掛けることになると思うから……」
「やってみないと分からないじゃないか。一回で良いから合わせてみようぜ」
「でも……」
「なっ、水嶋!」
「あの……その……」
マコトのやや強引な勧誘に、返事に困ったナオを助けてくれたのは、レナだった。
「マコト! 水嶋さん、困っているじゃないの! 本当にマコトは強引なんだから。まずはドラムじゃないの?」
「おお、そうだった! カズホ! 明日、早速、北岡に話をしてみるか?」
「そうだな」




