05
マコトとカズホの漫才トークをしばらく聞いていたナオは、ふと、レナに見つめられていることに気がついた。新入生歓迎ライブの際に会った時のような、にこやかな雰囲気ではなく、するどい視線がナオに向けられていた。
「水嶋さん。あなた、いつもここに来ているの?」
「は、はい」
「カズホとジャズ談義をするために?」
「い、いえ。それはたまたまで、ここに毎日通っているのは、私自身、ちょっと事情があって……」
何となく、レナから詰問されているように思えて、ナオは言葉に詰まった。
「なんか、家に真っ直ぐ帰れない事情があるらしいんだ。もっとも、その理由までは訊いていないけどな」
答えにくそうにしているナオを見かねたのか、カズホが代わりに答えてくれた。
「ふ~ん。それって今日の宿題?」
ナオが机の上に広げていたプリントを見ながら、また、レナが訊いてきた。
「あっ、はい。あの、ジャズを聴きながらの方が捗るので……」
「ふ~ん。そっか」
レナはそう言うと、腕組みをしながら、しばらく無言でナオをじっと見つめた。
ナオは、レナの視線が痛く感じられてきて、恐縮するように小さくなっていった。
(立花さん、ひょっとして怒っているのかな? 私が佐々木君と二人きりでドールで会っていることを……)
俯き加減のナオは、上目遣いにレナを見ていたが、耐えられなくなって、時々、視線を外した。
そんなナオとレナの様子に気がついたのか、カズホが割って入ってきた。
「おい、伽羅のこれからについて話すんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうだったわね」
レナは、ふと我に返った感じだった。
「あの、私、お邪魔じゃないでしょうか?」
ナオは、ここにいて良いのか不安になって、誰にともなく訊いた。
すると、レナが先ほどの雰囲気とは別人のように、ニコニコしながら答えた。
「こっちの話は、別に聞かれて困ることじゃないから大丈夫よ。水嶋さんの勉強の邪魔になっちゃうけど、ごめんね」
「いいえ、私は全然平気です」
「本当? どうもありがとう。それじゃあ、まず、マコトの考えから聞かせて」
レナは頬杖を付きながら、隣のマコトを見た。
「俺は、伽羅というバンドは、もう終わったと思っているんだ」
「どういうこと?」
「つまり、メンバーを補充してというより、新しいバンドを一から結成するという考え方だよ。東田と斉藤が抜けたバンドは、もう伽羅じゃないってことだよ」
「新しいメンバーと、新しい方向性のバンドを作り上げるってことか? その考えには、俺も賛成だよ。マコト」
カズホもマコトの考えに賛成の意志を示した。
「伽羅はロック色が濃い感じだったけど、もうちょっとポップな感じも欲しいなって、前から思っててさ」
「そうだな。十六ビートの曲も増やしたいよなあ」
「はあ~」
ため息の主はレナだった。




