04
ナオは、ドールのいつもの席で勉強をしていたが、今日は、いつもより来客が多く、全然知らない人と相席を頼まれたらどうしようかと、不安で一杯だった。
(佐々木君、早く来ないかな)
そう思っていた時、また、来客を知らせるドアのベルが鳴った。
(佐々木君でありますように!)
ナオは、振り向くのが怖くて、入り口に背を向けたまま、そう祈った。
「よう」
聞き慣れたカズホの声に、ナオは体中の力が抜けるくらい安心した。
「はあ~、こんにちわ」
「あと二人、相席しても良いか?」
「えっ?」
ナオが振り向いて入り口の方を見ると、そこには、マコトとレナが立っていた。
「あ、あの、私、もう帰りますから、どうぞ」
「良いって。丁度、三つ席が空いているし。それにマコトとレナにも水嶋のことを紹介しておきたいからね」
カズホは入り口の方を向いて、マコト達を呼んだ。
「マコト! ここに座ろうぜ」
「良いのか?」
「ああ」
ナオの隣にカズホが座り、カズホの前にマコトが、ナオの前にレナが座った。
そこに、満席なのに全然忙しそうに見えないマスターがお冷やを持ってやって来た。
「いらっしゃい。珍しいね。三人揃ってやって来るなんて」
カズホはいつもの夕食メニューを、マコトはブレンド、レナは紅茶をオーダーした。
マスターがカウンターに戻ると、カズホがマコトとレナに、ナオを紹介した。
「紹介するよ。同じクラスの水嶋だよ」
「あ、あの、二年一組の水嶋奈緒子です。よ、よろしくお願いします」
ナオはレナとマコトに頭を下げた。
レナは、新入生歓迎ライブの時に出会ったことを思い出したようだった。
「ああ、確か、ハルカちゃんたちと講堂で会った……」
「は、はい、そうです」
「ごめんなさい。すぐに思い出せなくて」
「いいえ、とんでもないです」
「あらためて、よろしくね。水嶋さん」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「それから、こっちがいつも話しているギターの武田真。二年六組だよ」
「よろしくっ。……で、カズホとはどういう関係なんだ?」
ストレートなマコトの質問に、ナオは顔を赤くしながら慌てて否定した。
「え~っ。か、関係なんて何もないです!」
「そうだよ。ただの同級生だよ。もっとも、水嶋もジャズが好きで、ここによく来てて……。そうだな。あえて言えば、ジャズ談義仲間ってところかな」
「うんうん。そうですそうです」
カズホの言い訳のような紹介に、ナオは心の中では寂しさを覚えつつも同意した。
「へ~、そうなのか。でも、ジャズ好きの女子高生って珍しいよな」
「佐々木君にも同じこと言われました」
「そうだろう。天然記念物ものだぜ。生きる化石といっても過言ではない」
「それじゃあ、俺みたいなジャズ好きの男子高校生は、何なんだよ?」
「未確認生物並みの珍しさだな」
「俺は、ビッグフットとかツチノコと一緒かよ」
(佐々木君って、武田君としゃべっている時も、教室にいる時と違う。やっぱり、佐々木君って人見知りなんだ)
ナオは、カズホが今のクラスの男子と話しているところを見たことがなかったから、マコトと話している時のカズホにも若干の驚きを覚えた。




