03
ナオは、新たに編入される二年一組の担任教師である平野と一緒に教室に向かっていた。
「うちの高校は都立の中でも進学率が高くてな。その反面、クラブ活動は低調なんだよ。特に体育系はね」
ジャージ姿で体育教師のイメージそのままの平野はちょっと不満そうだった。
「水嶋さんは何かやりたいクラブでもあるのかな?」
「いえ、まだ決めていません」
「そうか。小柄な体格でも短距離走なんかだと良いところまで行けるはずだよ」
(なんか早速、陸上部に勧誘されているのかな?)
運動が苦手なナオは、もとより体育系クラブに入部するつもりはなかった。
「うちの学校も昨日から新学期が始まって、二年生は一組から八組まで、すべてクラス替えをしたんだ。友達作りに関していえば、みんなとほぼ同じスタートラインに立っていると思えば良いから心配することはないぞ」
「は、はい」
(友達作りまでレースなんだ。……でも、ゴールってどこなんだろう?)
二年一組の教室は三階にあった。
平野に続いて教室に入ったナオは入り口の近くで立ち止まった。平野が教壇に立つと、すぐさま、日直の「起立! 礼!」の号令が掛かった。
「おはよう。今日は、このクラスに転校生が来ました。水嶋さん、自己紹介をしてくれるかな」
ナオは、平野の隣に移動して、ペコリと頭を下げた。
「あ、あの、水嶋奈緒子といいます。父親の転勤で福岡から引っ越して来ました。よ、よろしくお願いします」
クラス全員の視線がナオに集まっていた。バンドをしていても、人から注目されることには全然慣れていなかった。
「それじゃあ、水嶋さん。窓際の一番後ろの席が空いているから、そこに座ってくれるかな。黒板の字が見えにくいようだったら、前の席に替えるから申し出てくれ」
「はい、大丈夫です」
指定された窓側最後列の席に向かうナオの視界に金髪が飛び込んで来た。さっきの金髪男子だった。なんとナオの席は金髪男子の後ろだった。
金髪男子は、ナオのことなど興味がないように頬杖を付いて窓の外を見ていた。
「さっきはどうも……」
ナオは、蚊の泣くような声で金髪男子に挨拶をしたが、金髪男子はナオを一瞥しただけで、すぐ視線を窓の外に向けた。
(虐められることはないよね……)
ますます気持ちが重くなるナオであった。