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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第三章 大事な友達
23/73

01

 ナオが転校して来てから二週間ほど経ったある日。

 その日の放課後も、ナオはドールに向かった。その日は、父親からお使いを頼まれており、買い物がてら時間を潰すことはできたのだが、ドールでの時間は、ナオにとって既に時間潰しとは言えなくなっていた。

 いつもの席で勉強をしていると、カズホがやって来た。

「よう」

「こんにちわ」

 カズホを待っていると約束した日以降は、入り口に背を向けた窓側にナオが座り、カズホがその正面に座るようになっていた。

「水嶋。これ、ありがとうな」

 カズホが、ナオから借りていたCDを差し出した。

「あっ、もう良いんですか?」

「おう、もう耳にタコができるくらい聴いたから」

「耳にタコができたんですか?」

「イカじゃないぞ」

「あ~、なんか私を馬鹿にしてませんか? 私だって、イカとタコの違いくらい分かりますよ」

「例えば?」

「たこ焼きの中に入っているのがタコで、そのまま焼いて食べるのがイカです」

「あ、あのさ、水嶋はどっちが好きなんだ?」

「私は、断然、たこ焼き派です!」

「そうなのか」

「はい。外はパリッ、内はトロ~リがおいしいんですよね~。えへ~」

「まあ、水嶋の好みは分かったけどさ。なんでCDからたこ焼きの話になるんだよ?」

「えっ、あれっ、……どうしてでしょう?」

「はははは。さすが水嶋だ」

「もう~」

 カズホが笑い転げているのを見ると、ナオは、自分まで楽しくなってきて、一緒になって笑った。

「でもさ、たこ焼きとは関係なく、そのCD、本当に良かったよ」

「そ、そうですか。あの、他にも聴きたいアルバムとかあれば言ってください。どんどん持ってきますから」

「えっ、良いのか?」

「はい。最近、お父さんのCDをよく借りているでしょう。それでお父さんから『誰かに貸しているのか?』って訊かれたから、私が『学校の友達にジャズが好きな子がいる』って言ったら、お父さんも喜んでいたんですよ。ジャズ好きの仲間が増えることは嬉しいみたいで、何でも貸してやれって言っているの」

「へ~、水嶋のお父さんって太っ腹なんだな」

「いえ、そんなに太ってないですよ。どっちかというと痩せている方かと」

「いや、別に水嶋のお父さんの体型なんて気にしてないから」

「えっ、……ふにゃ~。また、やっちゃいました」

「はははは。水嶋は天然百パーセントだな」

「自分では天然部分は五パーセントくらいだと思っているんですけど……」

「後の九十五パーセントは何だ?」

「理論的で冷静沈着な私……」

「お前、全然、自分のこと見えてないだろ」

「言ってて自分でも恥ずかしくなったんだから、もっとやさしく否定してくださいよ~」

「はははは」

 笑いが納まった頃、ナオが広げていた問題集を見て、カズホが訊いてきた。

「ああ、そういえば、今日の宿題は、かなり広い範囲が出てたんじゃね?」

「はい。今、やってるけど、量が多いだけで、そんなに難しくないですよ」

「そうか。かったるいなあ」

 宿題のことを訊かれて、ナオは、父親から頼まれていたお使いのことを思い出した。

「あっ、そうだ。佐々木君、ちょっと訊いて良いですか?」

「なに?」

「今日、CDショップに行きたいんですけど、この辺りで一番大きなCDショップって、どこにあるかご存じですか?」

「駅前のショッピングセンターの四階にあるよ」

「そうなんですか」

「CDショップで、何を買うんだ?」

「お父さんからお使いを頼まれていて、ジョージ・ステファンというサックスプレイヤーの『アトランティカ』というアルバムを買いに行きたいんです」

「ジョージ・ステファン? 知らないなあ。マスター! ジョージ・ステファンというサックスプレイヤー知ってる?」

 カズホがカウンターの中にいたマスターに質問すると、すぐ答えが返ってきた。

「ああ、けっこう以前から活動しているけど、あまりメジャーじゃないから知っている方が珍しいかもね」

「そうなんだ。水嶋のお父さんって、本当にジャズのこと詳しいんだな」

「『アトランティカ』というアルバムは、ジャズ批評の雑誌を読んでて聴いてみたくなったみたいなんです。お父さんも普段は仕事が忙しくて、なかなかCDを買いに行けないから、私がよく代わりに買いに行ってるんです」

「へ~、そうなのか……。あっ、そうだ。水嶋。俺も一緒に行って良いか?」

「えっ、……あ、あの、場所なら分かりましたから……」

「いや、久しぶりにCDショップに行ってみたいんだよ。用事もなく、かつCDを買う金もなくCDショップに行くと、なんかむなしくなってしまうけど、一応、水嶋と一緒にCDを探すという目的があるからな。ぱぱっと飯を食べてしまうから、ちょっと待っててくれ」

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