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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第二章 小さな約束
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 この日の午後は、新入生に対して、各クラブが一斉に勧誘を始めた日だった。

 体育系のクラブは、校庭や体育館で実技を見せながら説明を行い、文化系のクラブも講堂や各部室でそれぞれの活動をアピールをしていた。クラブに入部していない在校生もこれらの勧誘合戦を自由に見ることができ、さながらミニ体育祭&学園祭という雰囲気だった。

 講堂にも、多くの新入生が集まっていた。

 吹奏楽部のステージの後、軽音楽部の演奏時間となり、軽音楽部二年生バンド「伽羅」の演奏が始まった。

 曲は、ロック調のオリジナルで、ボーカルの斉藤とギターのマコトは、派手なアクションで観客を煽っていた。

 ファンの生徒達だろうか、男女十数人の生徒達がステージ近くに立って手拍子をしていた。

 カズホは、身体全体でリズムを刻みながらも、他のメンバーの演奏を見守りながら、バンド全体をまとめているという感じで演奏していた。

 ナオは、ミエコとハルカと一緒に、新入生用の席の後ろに用意された在校生用の席に座って演奏を聴いていた。

(確かに、佐々木君とギターの人はすごく上手い。でも、ボーカルとドラムとのまとまりがないような気がするなあ)

 ナオは、カズホのテクニックに感心するも、バンドとしてのまとまりに欠け、全体としては、そんなに素晴らしい演奏だとは思わなかった。

 ナオは、ふと、自分達の座っている席の横の壁際に立ち、腕組みをしながら伽羅の演奏を聴いている長い黒髪の女生徒に気がついた。講堂の照明が落とされていたから、はっきりとは見えなかったが、その目はなんとなく怒っているように見えた。

 伽羅の演奏が終わり、メンバーがステージの袖に下がったところで講堂の照明が灯った。

「う~ん、やっぱり、すごいなあ。佐々木君」

「格好良かったよねえ。これで新入生の女子もほとんど佐々木君のファンになったんじゃないかな」

 ハルカとミエコがカズホの演奏を絶賛した。

 確かに、一年の女生徒達の中には、カズホのビジュアル的な印象が強く残ったのだろうか、ざわめきが起きていた。

「どうだった? ナオちゃん」

「えっ、あっ、うん。すごかったね」

「でしょ~。ますますナオちゃんの席が羨ましくなったよ」

「この後は、演劇部のステージだけど見ないでしょ? いったん教室に戻りましょう」

 ハルカは二人をうながして席を立った。

 席を立つ時、ナオが何気なく壁際の女生徒を見ると、女生徒は、ため息をついてから振り返り、講堂の出口に向かっていた。丁度、出口で、その女生徒とナオ達が鉢合わせすると、ハルカがその女生徒に笑顔で話し掛けた。

「レナちゃん。久しぶり」

「あら、ハルカちゃん。ハルカちゃんも伽羅の演奏を聴きに来ていたの?」

「ええ。相変わらず、すごかったね」

「う、うん。そうだね」

 レナと呼ばれた女生徒は、日本人形を現代風にアレンジしたように、古風で清楚な面と、派手で華やかな面を併せ持っている感じの美少女だった。

 背中の中程まである黒くサラサラのストレートヘアは、思わず触りたくなるような光沢を放っていた。長いまつげに縁取られた切れ長の目には大きな瞳が輝いており、やや薄めの唇が意志の強さを現しているような気がした。しかし、そんな整った顔立ちにありがちな冷たい感じはせず、いつも微笑んでいるような温和な雰囲気を漂わせていた。長身というわけではないが、バランスの取れたプロポーションと相まって、スカートをミニにして、紺色のソックスを履いていること以外は、ナオと同じ制服を着ているはずなのに、そうとは思えないほど魅力的なオーラが放たれていた。

(綺麗な人だ)

 ナオは、思わずレナに見とれてしまった。

「やっぱり、クラスが別れると、なかなか会えないもんだね」

 ハルカは、一年生の時、レナと同じクラスだったようだ。

「そうね。二人は一組のお友達?」

「うん、そうだよ。服部美恵子ちゃんに水嶋奈緒子ちゃん」

「五組の立花麗菜たちばなれなです。よろしく」

「あ、あの、水嶋奈緒子です。よろしくお願いします」

 笑顔で会釈をしたレナに対して、ナオは四十五度に上半身を折り曲げて丁寧に挨拶をした。

 一方、ミエコは嬉しそうにレナに話し掛けた。

「服部美恵子です。立花さん、いろいろとお噂は聞いています」

「噂って?」

「全校男子生徒の憧れの的。男子達からは『クイーン』って呼ばれていて、絶対不可侵の存在だって」

「うふふ。なんかすごく大きな尾ひれが付いた噂話みたいね。そのままどっかに泳いで行っちゃいそう」

 レナは、ミエコの発言にも動ぜずニコニコ笑っていたが、ハルカは、慌てた様子でレナに手を振った。

「あああ、……じゃあね、レナちゃん。また……」

「うん。それじゃあね」

 レナは笑って手を振りながら先に講堂を出て行った。

 レナが見えなくなってから、ハルカはミエコに怒った。

「もうっ! ミエコったら、初対面の人に、いきなりなんてこと言ってんのよ!」

「えっ、……あはは。ごめんごめん。でも、立花さんって本当に綺麗だよね」

「綺麗なだけじゃなくて、頭も良いし、運動神経も抜群だし。それに、さっきもミエコの不適切発言をさらりと冗談で受け流してくれたように性格も良いから、女の子のファンもけっこう多いのよ。私も大好きだし」

「そうなんだ。でも、立花さんも伽羅の演奏を聴きに来てたみたいだけど、立花さんと佐々木君って知り合いなのかな?」

 カズホとレナとの関係が気になったのか、ミエコがハルカに訊いた。

「もちろん。確か、レナちゃんは、入学当時は軽音楽部に入っていて、佐々木君と一緒にバンドをやってたはずなんだよね。でも、すぐ軽音楽部を辞めちゃったみたい」

「そうなの。どうしてだろう?」

「さあ、分かんない。でも、その後も、レナちゃんは佐々木君や武田君とも時々話しているし、喧嘩別れしたってことじゃないみたいね」

「でもさ、佐々木君と立花さんがカップルだったらえるよね。二人には浮いた話はなかったの?」

「そうね~。時々、噂にはなるけど、そこはよく分からないんだよね。まあ、昔のバンド仲間って感じで付き合っているくらいで、彼氏彼女の関係にあるっていう確定情報は無いわね」

「そうなんだ」

 ミエコとハルカの話を聞いていたナオは、不思議と安心したような気持ちになった。

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