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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第二章 小さな約束
11/73

03

 都立美郷高校とりつみさとこうこうは、昭和六十年代に改築された旧館と、平成十年に新築された新館の二つの校舎があり、一般教室は新館に集められていた。旧館には、音楽室や図工室、調理室、化学実験室といった特別教室が集中しており、文化系クラブの部室も配置されていた。

 軽音楽部の部室は、旧館一階の音楽室の隣にあった。音楽室は吹奏楽部が使用しており、その楽器倉庫を兼ねた第一音楽準備室と第二音楽準備室の二つの部屋を軽音楽部が使用していた。学年ごとのバンドが、その二つの部屋を交代で使用していたが、三年生バンドは既に解散していたことから、今は、第一音楽準備室が軽音楽部の二年生バンドである伽羅の練習場所になっていた。明日の新入生歓迎会を終え、軽音楽部にも一年生が入部してくると、第二音楽準備室が一年生バンドの練習場所になる予定だった。

 放課後。伽羅のメンバーは、第一音楽準備室で、明日の新入生歓迎会ライブに向けた練習をしていた。

「ストップ!」

 伽羅のリーダーでギターのマコトが演奏を中断させ、ドラムの東田に厳しい視線を向けた。

「東田! 明日はライブだというのになんだよ。前から言っているところ、いつも間違っているじゃないか。ちゃんと練習してきているのか?」

「あ、ああ。練習ならしているさ」

「とてもそんな風には思えないけどな。それと、斉藤! 全然、声が出ていないぞ」

 マコトの不満はボーカルの斉藤にも向いた。

「えっ、そうか?」

「そうかじゃねえよ。お前ら、やる気あんのかよ?」

「ちょっと待てよ、マコト。お前やカズホのレベルで話をしないでくれるか」

 斉藤は、マコトの問いには答えず、不機嫌そうに言い返してきた。

「どういうことだよ」

「お前達、プロを目指しているんじゃないのか。でも、俺や東田は、あくまで高校のクラブとして活動をしているんだ」

 一年生の三学期以降、伽羅の練習風景は、いつもこんな雰囲気になっていた。その頃から、斉藤のボーカルと東田のドラムは進化していないと、カズホも感じていた。いくら努力しても高校生のレベルではテクニック的に難しいところがあることは分かっていた。しかし、斉藤と東田は現状に満足し、それを越えようとする努力すらしていない。そのことがマコトとカズホは不満であり、思ったことをすぐ口にするマコトが、練習のたびに爆発を繰り返していたのだ。

(さすがに今日の演奏は酷い)

 カズホも思った。マコトが言っているように、同じ箇所で同じ間違いを繰り返しているのだ。練習をしているというのは嘘だろう。

 普段は、爆発するマコトをなだめる役目のカズホも、さすがに今日は一言、言いたくなった。もっとも、その口調は、いつものカズホらしく静かに説得する感じであった。

「テクニックとかは関係ないだろ。自分ができる最高のパフォーマンスを見せてくれれば、それだけでバンドの勢いが違ってくるんだよ。バンドってそんなもんだろ」

 カズホの援軍を得て、マコトも勢いづく。

「そうだよ。今の斉藤と東田には最高のステージを見せてやるっていう気持ちが感じられないんだよ」

 いつもは物静かなカズホからも意見され、斉藤は東田と顔を見合わせた。そして二人でうなずき合った後、意を決したかのように斉藤が言った。

「俺も東田も進学希望なんだよ。実は、今月から二人で塾に通っていて、前みたいにバンドの練習に時間を割くことはできないんだ。マコトとカズホが俺たちの演奏に不満があるなら、もっと上手い奴をメンバーにすれば良いじゃないか」

「なんだと! お前らあ~」

「マコト、よせ」

 ライブの前日に、これ以上、険悪な雰囲気になるのはまずいと、カズホが割って入った。

「今日の練習はこれまでにしよう。東田、斉藤。明日のライブでは盛り上がっていこうぜ」

「あ、ああ、分かったよ」

 東田と斉藤は一応同意をしたが、さっさと後片づけをして部室から出て行ってしまった。

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