明日への意思
以前、思い付きでパァーっと書いたモノです。
大したものでもないので、あまり期待しないで下さい。
7月12日 午後 11時 47分
わたしは大好きな読書を終えて、部屋の明かりを消した。
この病院は都市部から大きく離れているせいか、深夜ともなれば薄気味悪いくらいの静寂に包まれる。
病院が気味悪いのは、しょうがないかも、だけど。
改めてシンと静まり返った夜の闇を見渡してみる。
“静寂”と呼ぶには静か過ぎるこの静けさは、耳が痛いような気がする程に五月蝿い。
――本当に、静かだな……
わたしがこの病院に来たのは、五日程前。
その日のわたしは、朝から少し熱っぽかったと思う。
でも、ただの風邪だろう、って甘く見ていた。
薬を飲んで学校へ行ったのだけれど、体育の時間に急に気持ちが悪くなって、そのままわたしは意識を失ってしまった。
その後の事はよく覚えていない。
目を覚ました時には、この病院のベッドの上で横になっていた。
お父さんの話では、救急車を呼んだりして大変だったらしい。
病院関係者だった父はその立場を利用して、人見知りの激しいわたしに個室まで用意してくれた。
頼りになる父で、良かったとは思うけれど、それって“職権乱用”ってやつじゃないかな?
ちょっぴり、不安。
お母さんの話では、わたしが倒れた事を聞いた時、パニックになってしまったらしい。
娘のわたしがこんな状態なのに、自分までお医者さんに鎮静剤を打ってもらうことになって恥ずかしい、なんて言っていた。
自分の母親が、ちょっぴりかわいいなって思ったのは、これが初めてかもしれない。
これは、新発見だ。
そんな事を考えながら、窓の外に浮かぶ月を眺めていた。
青さすらも感じさせるような夜空、その遥か上にある、真ん丸なお月様。
都心のビル郡が、その月に向かって伸びている。
この病院の窓は、どれもが秀逸な風景画みたいだ。
わたしはこの絵に、『月までとどけ』と名付けよう、と思った。
――大丈夫…… わたしは、明日には……
その時だ。
開けておいた窓の隙間から、一匹の蛍が舞い込んできたのは。
――こんな時期に、しかもこんな時間に。珍しいな……
そのこはわたしのところまでやってくると、ベッドの端に止まって何かを訴えるように、淡い緑の明滅を繰り返した。
うん、きっと、このこもわたしを励ましてくれているのだろう。
こんな病気に負けるな、って……。もっと、生きるんだ、って……。
――大丈夫…… 明日の、わたしは……
そう、わたしは病気なんだ。
病名は何だか長ったらしくて、舌を噛みそうなものだったと思うけど、忘れてしまった。
覚えていることは、それがとても深刻なものだった、ということ。
そして、できるだけ早く手術をしなければならない、ということ。
でもね、その手術が明日あるんだよ。
そうすれば、きっとわたしは良くなる。また、いつも通りの日々が送れるようになる。
「だから、心配しないで、ね?」
そうわたしが言うと、蛍は再び舞い上がり、部屋の中を飛び回り始めた。
――大丈夫、大丈夫…… わたしはきっと、大丈夫。
何度目かの呟きを心の中で漏らす。
父が、母が、先生が、友達が、何度もかけてくれた、言葉。
蛍の励ましと、この言葉のおかげで、安心してしまったのだろうか?
なんだか、とても眠くなってきた……
きょう 、もう、ねむ う……
そ すれ 、わたし ……き と……
7月13日 午前 0時 11分
部屋を舞っていた蛍は、緑の明滅を繰り返しながら窓を出て、
ふわりふわりと、月を目指して空へと昇っていった。
あとがき
お付き合い下さり、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
この少女、その後どうなったのでしょうね……?