第一章 選帝の都は、曖昧な輪の内側に Ⅰ-ⅷ 【マリーナ】
結論から言うと……私とエルバ・ハンザとのお見合いは、恙無く終わった。
つまり……
正式に……
私とエルバ・ハンザは、結婚することになったのだ。
……なんで?
貴族同士の結婚というのは、本人の意思は関係ないことは理解していたけど……それでもあまりにも早かった。
エルバ・ハンザと結婚するということは、私もハンザ一族の一員となる。
それなのに、ハンザ家の人間が、この結婚のことを知っている様子はなかった。
それが家風ということであるのなら、納得するしかないけど……。
こいうのを『超展開』というのかもしれない……いや、違うか。
しかも、私は、【神聖ライン皇帝選挙】に出馬することとなった。
前皇帝フィリアスⅢ世が死去してからの十年間、神聖ライン帝国の首都である『インラクート』は、その栄光の冠を戴くことはなかった。
長きにわたり皇帝選挙が行われなかった理由は、規定の候補者が出揃わなかったからだ。
なぜなら『ライン皇帝』の権威は、ライン法王に次いだ世俗世界最高位だったが、その権力自体は、小領主並みであり形骸化していたからだ。
皇帝のお膝元である『インラクート』でさえ、その支配の実権は、聖職者(律法師)、貴族及び有力市民で構成される帝国議会により掌握されており、皇帝が権力を及ぼせる場所は、ライン皇帝宮城内のみであった。
したがって、このような形骸化された『皇帝』の座に就きたいという変わり者は、それほど多くなく、ライン基本法に規定されている『五人以上の候補者をもって選帝をおこなう』という要件を充足させることできていないというのが現状だったのだ。
しかしながら、ルクト・ハンザことエフィリアス九世が、神聖ライン教皇に即位されると同時に、世俗世界の異端排除を目的として『世俗の最高権威』の再興を宣言されたことにより、事態は一変する。
この教皇宣下により、帝国議会は、自ら進んで皇帝勅選議員枠を全体三分の一創設することを決議し、その最初の勅選議員は、時期ライン皇帝により選出されるとした。
さらにインラクート、リア、ディルトスという大都市が、皇帝直轄領となった(もっとも、これまでも『皇帝直轄領』であったのだが形骸化していた為、改めて宣言したのである)。
これにより、神聖ライン皇帝は、世俗随一の力を有していたファレンス王を凌駕し、かつて神聖ライン皇帝が有していた『権威』に相当する『権力』が復活し、再びその玉座の価値に注目が集まり、皇帝選挙が開催されることとなった。