第一章 選帝の都は、曖昧な輪の内側に Ⅰ-ⅴ 【エルバ】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お姉様……?
どこに行かれるのですか?
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あの日から……オレの【世界】は、熔け続けている。
いくら【世界】を再構築しても、熔け続けるのを止めることはできない。
おそらく、オレの【世界】の軸が、狂ってしまっているのだろう……。
全ては……アイツらの……。
全ては……
「エルバ公、待たせしてすまない」
「大丈夫だ。幸運なことに卿からの非礼には慣れている」
「ふ、相変わらずの男だな」
「卿に言われると、説得力があるな。それで、今日オレを呼びつけた理由を聞かせてもらえるかな」
オレは、目の前にいる人間の目を睨む。
ランカスティ子爵家当主、リオ・ランカスティ。
元法王近衛騎士団総長として、前法王から【聖剣】の称号を授与された修道騎士であり、その実力は、法の守護者【聖剣】として十二分のものだ。
いつもはふざけているが、オレは、コイツの実力を知っている。
なぜなら……目の前で、オレの部下五十人を一瞬で消し去ったからだ。
『【法】に対する解釈の違いだけだよ』
そう言い放つと、コイツは、オレに自らの力を見せ付けたことに満足したかのように、素直に投降した。
この件は、当時【法王選出会議】の介入により秘密裏に処理され、その後リオ・ランカスティは法王庁の監視下に置かれた。