第六章 曖昧な輪は確定せず Ⅲ-ⅲ 【イリシス】
何時の頃からだったのだろう……?
わたしは、ときどき、お兄ちゃんとの距離を感じるときがあった。
それは不安となり、だんだんとわたしの中で大きくなっていった。
そして、ついに耐えきれなくなったわたしは、ある日、お兄ちゃんに聞いてみた。
お兄ちゃんは、わたしのこと必要?
お兄ちゃんは、すぐに「必要や」と答えてくれた。
わたしは、そのお兄ちゃんの言葉を信じた……ううん、信じたかった……。
その言葉だけが、あのストアでの日常が永遠に続くことを信じるための唯一の"理由"だったから。
……でも……お兄ちゃんは、いなくなってしまった。
お兄ちゃんは、わたしのことが必要ではなかったのだ。
あのときは、そう思った。
だから、わたしは……
必要とされたい人から、必要とされていなかったら、それはとても悲しいことだ。
必要としている人から、必要とされなくなったら、それはとても悲しいことだ。
……わたしなら、生きて行くことができなくなってしまう……。
だってそれは、とても辛く悲しいことだから……。
だってそれは、わたしが生きて行くために絶対に必要だから……。
辛かった、悲しかった、そんな現実は見ていたくなかった……だから……。
わたしは、包帯を解いて、左手首にある傷を見た。
あのときのことを考えるとまだ少し傷が痛む。
でも、わたしは生きている。
今は、例え必要とされなくても、ただ一緒にいられるのなら、それでいい。
これがわたしの望み……。
お兄ちゃんと、どんな形であっても一緒にいたい。
だから、わたしは、お兄ちゃんの側に『異端審問官』として居ることを望んだ。
それしか、お兄ちゃんの側にいる方法はないから……それは、とてもつらいことだけど……お兄ちゃんと離れるよりかは遥かに良い……。