第六章 曖昧な輪は確定せず Ⅱ-ⅳ 【イリシス】
……お兄ちゃん。
どうしてそんなに悲しそうなの?
わたし、お兄ちゃんの言うとおりにするよ。
だから、そんなに悲しそうな声を出さないでよ……。
「猊下、もう少しご自分の立場をお考え下さい。失礼を承知で申し上げますが、貴方は二週間後には聖座に就かれる方なのですよ」
「そんなことはわかっている」
「わかっていらっしゃるなら……」
フィナさんは、言葉を止めた。
どうしたんだろう?
フィナさんがこっちに歩いてくる。
そして、「ジジイどもの言葉なんて無視して、イリシスちゃんを救えばいいでしょう!」とお兄ちゃんを叱咤した。
「……ノバルティ副長……」
「ルクトさん……貴方だけがイリシスちゃんに対して罪の意識を持っていると思わないでね?」
私に対する"罪の意識"……なにそれ?
「すまない……ノバルティ副長……いやフィナさん」
「貴方は、この世界の秩序の代理人である法王になるのよ。つまり、法王の意思が世界の意思になるの。だったら、貴方が『聖女』……イリシスちゃんが異端ではないと言えばいいだけでしょう! もっとしっかりしないさよ!」
……『聖女』……わたしが……?
『聖女』って……あの『ペジエの聖女』のことだよね……それがわたし……?
『異端の聖人』、ピエト・オステル。
『扉』は、ピエト・オステルの『成果』。
『ペジエの惨劇』は、ピエト・オステルが引き起こした。
『ペジエの聖女』は、ピエト・オステルの『成果』。
「わたしは……『聖女』……なの? お兄ちゃん?」