第六章 曖昧な輪は確定せず Ⅱ-ⅲ 【ルクト・イリシス】
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「ハンザ猊下」
その声は……フィナさん?
どうして……どうしてフィナさんがいるの……?
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「ノバルティ副長、私に何か用でしょうか?」
「はい。『聖女』殿の件でお話があります」
……ついに来たか。
彼女は、今のイリシスがおかれている状況について何も感じないのだろうか?
ストアにいたときは、あれほどイリシスのことで僕に対して突っかかってきたのに……もう彼女の中でイリシスは過去になっているのか。
「後にしてくれませんか」
「それはできません。私は法王選出会議の命でここに来ているのですから」
……くっ。
なんて融通がきかない女なんだ。
くそが!
おそらく僕は、冷静さを欠いているのだろう。
フィナ君の一挙手一動が僕の神経を逆なでしていく。
これは誰に対する苛立ちか?
そんなことはわかっている。
自分自身への苛立ちだ。
僕自身の愚かさへの苛立ちだ。
僕自身の浅はかさへの苛立ちだ。
そして、
これからイリシスを『抹消』しようしている自分に対して苛立ちだ。
だからもう少し僕に時間をくれ。
もう少し冷静になる時間をくれ。
頼むから……。
「猊下……」
「後にしてくれって言っているのがわからへんのか!」
僕に時間を下さい。