第六章 曖昧な輪は確定せず Ⅱ-ⅰ 【イリシス】
目が覚めたら、わたしは白い世界にいた。
天井も壁もベットも白い。
純粋で無垢な空間。
わたしは、その部屋の中心に置かれているベットの上で目覚めた。
目覚めてもしばらくの間は、ただただその白い天井を見つめていた。
どうして、自分がこのような場所にいるのか、全く分からなかった。
……たしかさっきまで、お兄ちゃんと一緒にいたはずじゃ……そうだ!
レクラム・クレメンス!
わたし、あのレクラム・クレメンスと会ったんだった!
あれ?
……でも……それからどうしたんだったけ……?
思い出せなかった。
思い出そうとすると鈍い痛みが頭の中に走った。
それにしてもここはどこなんだろう……?
もう、わたしはエフィアに着いたのかなぁ……?
何の前触れもなく扉が開いた。
誰かが、部屋の中に入ってくる。
わたしは、わけもなく取りあえず眠っている振りをした。
目を閉じると、世界は白から黒に変化した。
まぶたの裏に白の幻影が残る。
侵入者の気配は、わたしの枕元まできた。
そして、そのまま動きを止める。
何をしているんだろう?
「……イリシス」
わたしの名前を呟く……お兄ちゃんの声……。
わたしは、すぐに目を開けて、寝たふりを止めようと思ったが、そうすることはできなかった。
理由は、あまりにも、私の名前を呟くお兄ちゃんの声が、悲しそうに聞こえたから……。