66/98
第五章 世界の瑕疵-『扉』 Ⅲ-ⅸ 【ルクト・イリシス】
「本当に、それでわたしはお兄ちゃんのところに戻ることができるのですか?」
わたしは、何かきっかけが欲しくて、彼女に尋ねた。
「はい」と彼女は即答した。
その彼女の答えを聞いて、もう迷うことはできなかった。
だからわたしは、
「……『共鳴』します」と彼女に言った。
▽
一瞬の強い光とともに、世界は、反転した。
黒から白へ。
静寂から轟音へ。
僕は身体のバランスを崩し、地に手をついた。
立ってはいられない。
立たせてはくれない。
しかし、僕は立たなくてはならない。
それが僕の義務だ。
イリシスから目を逸らせてはいけない。
イリシスを見失ってはいけない。
イリシスが、僕を欲している。
僕が、イリシスを欲している。
世界が、イリシスを拒んでいる。
世界は、イリシスを恐れている。
僕は、世界を守らなくはならない。
世界は、僕を必要としている。
だから僕は……。
だけど僕は…………。
「僕は、――」
僕は、イリシスに伝えるべき言葉をもっている。