第五章 世界の瑕疵-『扉』 Ⅲ-ⅷ 【ルクト】
「ルクト、これから貴様はどうするつもりだ?」
イリシスの姿に見惚れていた僕は、レクラムの問いかけに直ぐには反応することができなかった。
「もし、この『共鳴』が成功すれば、おそらく十日ほどの時を経てテレーズは『凍結』する。その十日を貴様はどう使うつもりなんだ?」
……十日の猶予。
イリシスがいつ目覚めるともなき眠りにつくまでの猶予期間。
僕は、この時間に何をすべきのだろう?
そんなことは、分かっている。
そんなことは決まっている。
イリシスに対する『贖罪』だ。
……しかし、その『贖罪』の意味を僕は分かっているのか?
僕はイリシスにどう『贖罪』すればいい?
どうすればイリシスに許してもらえる?
いまさら許してもらおうと考えること自体が、自己欺瞞、自己満足、自己完結なのか……?
それは僕には許されない行為なのか?
「ルクト、今まで貴様は、対話すべき相手と対話せず一人で考えてきたのではないか? 対話せず、一人で考えると思考の迷路に堕ちて二度と這い上がれなくなる……オレのようにな……」
レクラムは、嘲笑を浮かべている。
この嘲笑は誰に対する嘲笑か?
それは、明らかにレクラム自身に向けられたものだ。
「ルクト、貴様はオレのようにはなるな。オレは、ルシアが"こちら側"にいたときは、何一つ与えてやることができなかった。それどころかオレは、彼女から全てのものを奪い去ってしまった。もう、今のオレが彼女にしてやれることは、ルシアの傍にいてやることだけだ。
オレは、貴様に『ルシアに復讐の機会を与えてやるために生きている』と言ったが、そんな機会は永遠に訪れないことは解っている。オレは"こちら側"の人間、そしてルシアは"向う側"の存在……もう互いに想いを通わすことはできない」
「……お義兄様……そんな……」
ランカスティ司祭も、このレクラムの後悔と絶望、そして狂おしいほどの贖罪の念を目の当たりにしては、もう続けるべき言葉を持つことができないようだった。
……僕もこんな姿を晒すことになるんか……?
こんな……こんな!
いや!
まだだや!
まだなんとかなるはずや!