第五章 世界の瑕疵-『扉』 Ⅲ-ⅳ 【ルクト】
僕みたいだ。
レクラムは言葉を続けた。
「……ルクト、テレーズが『扉』になるのは初めから決まっていたんだ」
「……なんやと」
「貴様は、テレーズを『扉』の完成形―オステル先生の『成果』だと思っているようだが、それは違う」
……何を……言い出すんや……。
「今までテレーズの『扉』化を止めていた『心』は、研究のためにオステル先生が作り出した仮そめのものだ。したがって、それには"終わり"がある」
……"終わり"……やと……そんなことがあるはず……ない……?
仮そめの『心』……イリシスの『心』……ではイリシスは!
僕とレクラムの目がピタリと合った。
「そして、"終わり"は……」
「もう直ぐか?」
「そうだ」
なんて残酷な言葉。
決して望まない結果。
決して聞きたくなかった現実。
……それが、僕の前に突きつけられた。
「しかし、まだテレーズを"こちら側"に留め置くことができる。"終わり"を引き伸ばすことができるんだ。"こちら側"にさえいれば、テレーズを救う手段を見つけることができるかもしれない。
分かってくれ、ルクト……テレーズを救うためには、テレーズの心を『凍結』するしかないんだ」
違和感。
今レクラムが語りかけているのは、僕か……僕だけか……?
僕は理解する。
レクラムは僕を通してもう一人の自分に語りかけているのだ。
レクラムが抱いているのは、『果てることのない後悔』。
そして、『その後悔から逃れるため贖罪』、それがこの舞台の主題か……。
では、どうする?
僕はどうすればいい?
同様の後悔と贖罪の念を抱いている僕はどうすればいい……?
そんなことは分かっている。
もう既に答えは出ている。
もう既に僕は答えを持っている。
しかし、その答えを肯定したくはない。
しかし、肯定しなければならない。
それもわかっている。
だから!
『わたしには、お兄ちゃんが必要だよ……』
わかっている!
だから?
『わたしには、お兄ちゃんが必要だよ……』
わかっている! わかっている!
だから!
だから!
だから!?
だから!
『わたしには、お兄ちゃんが必要だよ……』
……わかっている……わかっている……わかっている……わかっている……わかっているんや…………………………だからだからだからだからだからぁぁぁ!
「……イリシスを……『凍結』してくれ……頼む」
僕は言った……これは、決別の言葉ではない、再会のための言葉なんだと自分に言い聞かせながら……言い聞かせながら……言い聞かせ……。
なんて……自己欺瞞だ。