第五章 世界の瑕疵-『扉』 Ⅰ-ⅶ 【ルクト・イリシス】
「私は、イリシスです!」
イリシスの声だ。
教会の方……?
まさか!?
焦燥感が僕を支配していく。
僕は、大地を蹴った。
▽
「……イリシス?」
そう言って、男の人は、眉をひそめた。しかし、その整い過ぎた顔は少しも崩れなかった。
……やっぱり怖いよ……この人……なんか普通じゃない。
……でも、ここでのまれちゃダメだ。
強気でいこう、強気で
(ガンバレ、イリシス! ありがとう、わたし!)。
「そうです。私は、第一審問管区長付異端審問官イリシス・リヒトフォーエンです」
「異端審問官だと? それはキミが望んで選んだ道か?」
「もちろんです」
「本当に?」
「本当です!」
わたしは、男の人の質問が不愉快で堪らなかった。男の人の一言一言がわたしの心をざわざわさせる。
不愉快だ
本当に不愉快だ。
「なるほど、それがルクトのやり方か……」
本当に、この人は何を言っているの……?
わたしには全くわかんないよ。
この人が言っている"ルクト"って、お兄ちゃんのことみたいだけど……。
なんか、この人と一緒にいるのは"良くない"気がする。
早く宿屋へ戻ろう。
「もういいですか? 私、もう戻らないと……」と言いかけたとき、背後から足音が聞こえてきた。もの凄い勢いでこちらに向かってくる。
何?
誰かが走ってくる……どんどんこっちに近づいてくる。
そして、「イリシス!」とともに、わたしの前にお兄ちゃんが現れた。