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アンビエント・リング  曖昧な輪の連  作者: 降矢木三哲
アンビエント・リング 第一部
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第一章 曖昧な輪、連鎖の始点  Ⅲ

ベルグの街の城門をくぐったわたしは、その華やかさに圧倒されてしまった。



行き交う人の数、洗練された服装、そして、石造りの重厚な装飾がほどこされた建物が、古くから商都として栄えてきたベルグの街が、今もなお栄えていることを証明している。


ストアという田舎から出てきたばかりのわたしにとっては、目もくらむ華やかさだった。



うわあ、やっぱり都会はすごいよぉ……ストアとは全然違うよね……。でも、田舎者だって馬鹿にされないようにしなくちゃ。わたしだって化粧して綺麗な服を着てオシャレをしたら、都会の女の人なんかに負けないんだから……まあ、そんなことを気にしている場合じゃないけど……。



わたしがベルグに来たのは、現在、この街に滞在中の第一審問管区長ルクト・ハンザさまと合流するためである。



ルクト・ハンザさまか……どんな方なんだろう?


優しい方だったらいいのになあ……。


でも、審問管区長……しかも、法王庁があるエフィアを初めとする主要都市が多く存在する第一審問区を統括されている程の方である。”優しい”という言葉とは程遠い方と考えていた方がいいよね。


来る途中で、心の準備を整えてきたつもりなんだけど……まだ準備ができてないよぉ……ま、ここまで来たんだから、あとはガンバルしかないよね。

 




うん! ガンバレわたし!





それに、ハンザさまはとても二枚目な方で、年もまだ二十代だという噂を聞いたことがあるんだよね♪ 



あぁ……本当に素敵な方だったらいいのになあ……。



もしかしたら、わたしのこの美貌の虜になっちゃうかも……って、それはないか……。



わたし、顔つきも幼いし……。


身体は、幼児体形だし……。



でもでも! もしかしたら、大人っぽい女性よりも可愛らしい女の子が好きかもしれな

いよね……って、それじゃあロリコンじゃないっ!


 



ドン!





 

「痛いっ!」

 わたしは、誰かにぶつかって尻餅をついてしまった。そのコケっぷりが田舎者丸出しである。

 


いてててっ……思いっきりお尻を打っちゃったよ……お尻がワレちゃうよ……。



「大丈夫?」と、わたしが、お尻をさすっていると頭の上から女性の声が聞こえてきた。



わたしは、顔を上げてその声の主を確認する。



二十歳前後ぐらいのショートカットの美人だった。


強気で自分に対して絶対的な自信を持っている感じがする。


しかも、抜群のプロポーションをしており、胸など、わたしのとは同種のものとは思えないくらい大きい……何を食べたらあんな風になれるんだろ……


肉?


それに、わたしと同じ、黒い審問衣を着ているところをみるとこの人も異端審問官なのかなぁ?



しかし、人々に『畏怖』を与える審問衣を着ているというのに、その上からでも彼女がとてもスタイルが良いことが充分わかった。



しかもその豊満な肉体が審問衣を着ることによって、かえって艶やかな感じがしているような気がする……なんかエロい。



へぇーっ、こんな人も教会にはいるんだ……ビックリ。



はっきり言って、わたしは、この女の人に女性として魅力が負けている。


ま、まあ……わたしも彼女ぐらいの年になれば、あれぐらいには……ってこの体形から どうやったらなれるのよ! と、自分の幼児体形にツッコミを入れてみたり。



まあ、いつまでも、こうやって通りの真ん中で座って(しかも、劣等感に苛まれている)いるわけにもいかないので、わたしは立ち上がることにした。



すると、そのナイスバディの女の人が手を差し出してくれたので、わたしは、その手を借りて立ち上がった。



「……すいません……わたし、考え事をしながら歩いていて……」と、ペコリと頭を下げた。


さすがに「妄想大展開中でした」とは言えない。


「気をつけなさいよ。最近、この街も結構物騒になっているらしいから、あなたみたいな可愛い娘は攫われちゃうかもよ」

 

可愛いだなんて……この人はいい人だよ……うん、うん。


彼女は、言葉を続ける。


「審問衣を着ているところをみると、あなたも異端審問官みたいだけど……」


「はい。今日付けで、第一審問管区長付異端審問官に着任するイリシス・リヒトフォーエンといいます」


「えっ、そうなの? 実は、あたしもルクト様付の異端審問官なのよ」

 

へぇーっ、偶然というものはあるもんなんだぁ……でも、この人って”ルクト様”って言ったよね? 


検邪聖庁さまをそんな気安い呼び方をしても大丈夫なのかなぁ……?


「あたしは、マリーナ・ランカスティ。マリーナと呼んでね」


彼女―マリーナさんは、そう言うと微笑んだ。その微笑があまりにも魅力的だったので、一瞬、わたしは彼女に見惚れてしまった。


しかし、すぐに、わたしも負けてはならないと思い「わたしも、イリシスと呼んで下さい」とせいいっぱいの笑顔を作って応えた。


マリーナさんは、そのわたしのぎこちない笑顔をみると、プッ! と吹き出した。


「わかったわ。でもイリシスちゃん、あたしはあまり窮屈なのは苦手だから、そんなに構えなくてもいいわよ」


「……はい、すいません」

 わたしは、自分の顔が、熱くなっていくのを感じた。

 

でも、マリーナさんは、少しクセがありそうだけど、優しそうな人で良かった。


これから一緒にお『務め』をするんだから、イジワルな人だったりしたら、嫌だもんね。


マリーナさんもわたしと同じで、今度新しくハンザさまの直属の審問官になるらしく、この街にはさっき着いたと言った。


しかし、マリーナさんは、わたしと違って既にこの街の華やかな雰囲気に馴染んでいた。出身地を聞くと、イシュタル(神聖ライン帝国の首都)だと言っていたので、やはり都会の大人の女性は違うと、改めて自分の田舎っぽさと、子供っぽさを認識させられた。


まあ……わたしみたいなオコチャマがマリーナさんみたいな大人の人と比べるのが間違っているんだけどね。



そうだよ。

 

うんうん。

 


とにかく、いつまでも道の真ん中で立ち話を続けていても仕方ないので、わたしは、目的地であるベルグ高等法院に向かうことをマリーナさんに提案した。


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