《幕間》
くだらない……本当にくだらない男だ。
この男が自分の父であると思うとこの身を引き裂きたくなる。
……しかし……今のオレに、この男の力が必要だ……。
「法王聖下、明日にはエフィアの城門を見ることができます。そうすれば、法王庁に巣食う異端者どもに、聖下のお力を存分に見せ付けてやりましょう。あんな銀行屋上がりのハンザ家の連中に教会を乗っ取られてはなりませんからな」
「その通りですぞ。聖下には、私が率いる九万のファレンス王国軍をはじめ、この世界の新しい秩序のためには死をも厭わない者達がついていますからな」
父にしろ、トアスにしろ何も"見えて"はいない。
何が、『この世界の新しい秩序』だ。
そんなものは、もうオレにはどうだっていい……もうオレの『秩序』は、終わっている……。
「そのとおりだ。クレメンス卿とトアス殿には、とても感謝している。この私が法王に即位することができたのも、お二人の尽力があってのことだ。それにも応えるために、私は全力を尽くすつもりだ」
「それでこそ!」
「ご立派ですぞ!」
こんな適当な言葉で、心から喜んでいるこいつらの姿を見ていると、笑いが込み上げてくる。
しかし、笑っては駄目だ。
こいつらには、まだユメを見させておかなければならない。
本当に……くだらない……くだらなすぎるユメを。
「しかし……この『扉』というものは、とても不思議な存在ですな。
姿形は、ただの人に見えるのに、その力といったら……」
「ルシアには触れるな!」
オレは、隣にいるルシアに触れようとしていたトアスの手を振り払った。
手を振り払われたトアス自身だけではなく、父も驚いて身体の動きを止めている。
部屋に、重苦しい嫌な空気が満ちる。
暫くすると、この空気に耐えることができなくなった父が、「ま、まあ聖下も戦いを前にして気持ちが高ぶっておられるのでしょう。
私達は、これでさがるとしましょう」と言って、トアスと伴に部屋から出ていった。
本当にくだらな過ぎる……。
……ルクト……オレは、早く貴様に会わなければならない。
貴様なら、オステル先生の『意思』に辿り着けるはずだ。