第四章 曖昧な輪は望む者の手の中に Ⅳ-ⅳ 【イリシス】
「お兄ちゃん……わたし……どうしちゃったの?」
わたしは、混乱している頭を落ち着かせると、お兄ちゃんにそう尋ねた。
「貧血を起こしたみたいやぞ。あの宿屋に居た医者が、外で冷たい風にあたっていれば、自然とよくなるって言ったから、ここまで連れてきたんや。どうや、気分は?」
お兄ちゃんは、まるで予め考えていた台詞であるかのようにスラスラと答えた。
わたしには、そのお兄ちゃんの言葉が、ひどくツクリモノように感じた。
お兄ちゃんは、ウソをついている。
……そう思った。
でも、そのウソは、わたしにとって必要なものなんだろう。
だって、お兄ちゃんのその言葉からは、わたしに対する優しさが感じられたから……だからわたしは、お兄ちゃんを信じる。
「……うん、もう大丈夫だよ。マリーナさんとエルバさんは?」
「あいつらは、一足先にエフィアに向かった」
「じゃあ、ここからは……?」
「僕ら、二人だけや」
「本当! 本当に本当!?」
「本当やって。だから、エフィアに着くまでは、昔と同じようにやっていこうや」
「うん!」
限られた時間とはいえ、またお兄ちゃんを、"お兄ちゃん"と呼べる。
また、お兄ちゃんは、わたしの"お兄ちゃん"になってくれた……。
本当に嬉しいよ……お兄ちゃん。
……たとえそれがウソでも……。