第四章 曖昧な輪は望む者の手の中に Ⅱ-ⅱ 【ルクト】
「ルクト様っ!」
ランカスティ司祭が、僕の腕に手を絡ませてきた。そして、執拗に自分の身体を僕に密着させてくる。
うわっ! 胸が、胸が、大きな胸がぁ!
ふっーっ、あぶないあぶない。
一瞬理性が飛びそうになってしまった……。
それにしても、いったいなんなんだこの女は?
なんか僕のことを以前から知っているみたいやけど……昨日、会ってからずっとこんな調子や……。
いったい、なにを考えているんだ?
『異端審問官』として自覚があるのか?
でもこいつ、胸の大きさは自覚しているな……効果的に使って……じゃなくて! とにかく、こいつに注意をしなくては。
「ラ、ランカスティ司祭……」
「なんですか?」
ランカスティ司祭は、一層自分の身体を密着させてきた。
「ちょっとまてぇーい!」
僕は、彼女の身体を突き放そうとした。
しかし……。
ガシッ!
彼女は、僕の身体にしがみついてきた。
なにすんねん、この女はっ!
「やめなさいっ! ランカスティ司祭っ!」
「いやです!」
「離れなさい!」
「いやです!」
「これ以上、このようなことをすると、貴方を罷免しますよ!」
僕は、きっぱりと言い切った。すると、彼女は、パッと僕の身体から離れた。
す、すばやい……。
「これでどうですか?」
ランカスティ司祭は、すました顔で何事もなかったかように言った。
くそーっ……殴りたい、殴ってみたい。しかし、ここは堪えるのが、検邪聖庁としての正しい態度だ。
「いいでしょう。これからは私との距離をこれぐらいは保ちなさい」
「嫌です」と即答する彼女。
「どうしてですか?」
この僕の問いかけに対して彼女は、笑顔で「だって、あたしルクト様のことが大好きなんですもの!」と答えた。