第四章 曖昧な輪は望む者の手の中に Ⅱ-ⅰ 【イリシス】
わたしは、モヤモヤしていた。
そう、モヤモヤだ。
つまり、モヤモヤしている。
モヤモヤ、モヤモヤ、モヤモヤ……。
むぅーっ!
なによっ!
なんなのよっ!
わたしにはあんな態度をとったくせに、どうしてマリーナさんにはヘラヘラしているのよ。
もう! 信じられないよっ!
お兄ちゃんのバカっ!
確かに、昨日お兄ちゃんに再会して、これからは"一部下"としてお兄ちゃんに接して行こうと決めたのはわたしだけど……。
でも、マリーナさんに言い寄られてヘラヘラしているお兄ちゃんをみていると……なんだかモヤモヤしてしまうよ……。
「どうしたんや、イリシスちゃん?」
わたしの横を歩いていたエルバさんが声をかけてきた。
むぅーっ、また、"ちゃん"付けでわたしのことを呼んでるよ、この人!
何度いっても直そうとはしないんだから……イヤになっちゃうよ。
わたしのことを"ちゃん"付けで呼ぶエルバさんに、初めのころは、「そういう呼び方はやめて下さい」といちいち言っていたんだけど、何度注意してもエルバさんはやめようとはしないので、今ではもう言うのをやめている。
ま、もう、あまり気にならなくなってきたからいいんだけどね。
「なんでもありません」
わたしは、そっけなくエルバさんに言った。
「あらあら……なんかオレ、イリシスちゃんに嫌われてんなぁ……なんでやろ? なんでやろうなぁルクト?」
エルバさんは、前を歩いているお兄ちゃんに声をかけた。
しかし、マリーナさんに言い寄られているお兄ちゃんには聞こえていないようだった。
本当にもう!
へらへらしちゃってっ!
お兄ちゃんのバカっ!