第三章 曖昧な輪の欠落 Ⅱ-ⅳ 【ルクト】
「―お兄ちゃんの本当の気持ちを教えてよ!」
僕は、イリシスを受け止めた。
……そう……ただ受け止めただけ……。
イリシスは、両腕で僕の胸を叩き続ける。素直に感情をぶつけてくるイリシスの姿を前にして、先程の僕の決意は、揺らぎ始めた。
……でも、僕の両手は、イリシスを抱きしめることも、拒絶することもできない……。
頭では、分かっているのに身体は、動かなかった。
イリシスに対してはっきりとした態度を採らなければならないのに、そうすることができなかった。
僕は、いったい何をしているんや……。
こんなに自分が優柔不断な人間だとは思わなかった。
少なくとも、今までは、決断すべきところでは、全てはっきりとした態度を採で臨んできたはずだ。
……それなのに……今、僕は、為す術をなくして立ち尽くしている。
これじゃ駄目だ……少なくとも話だけでもできるようにしなくては……。
僕は、イリシスを落ち着かせようと、彼女の腕を掴んだ。
すると、僕が掴んだ拍子にイリシスの左手首に巻かれていた包帯がほどけて床に落ちた。
これはなんや……?
僕は、その包帯の下にあったモノに目を奪われた。
イリシスの左手首には傷があったのだ。
それも、どう見ても自分でつけたとしか思われない傷が……。
「イリシス、これは……?」
イリシスは、上目遣いに僕を見つめる。
その瞳の潤んだ瞳が、僕の決意を消し去ってしまった。