《幕間》
法王領『エフィア』
聖ペテル宮 『法王選出会議』
元老 ラウス・ハンザ
元老 イル・ネア
元老 キト・ルフィダイン
元老 オスロ・レファンダイン
「昨夜、クレメンス卿が、ファレンス王国出身の枢機卿ら5名とともに、エフィアを出たらしいですな」
「私の方にもその報告は来ている。クレメンス卿は、ファレンス王国へ向かったようだな」
「すると、今回のファレンス王による対立法王擁立を裏で糸を引いていたのは、クレメンス殿でしたか。あの方は、どうしてもレクラム君を、法王の座に就けたかったみたいですね」
「法王選出会議の元老といえども、聖座が空いていては、自らの野心を抑えることができなくなったいうところか……愚かだな」
「おそらくクレメンス卿らがエフィアから逃亡したのは、ファレンス王国軍の侵攻に合わせてだろう。ファレンス王は、我々が彼の要求を断ったことを知ると、直にエフィアに向けて進軍を開始させたようだ」
「動きが早いですね。まあ、我々の答えなどは、初めから分かっていたでしょうから、予定通りといったところでしょうが」
「レクラム……いや、今やランスダイン法王聖下でしたかな」
「おやおや、レファンダイン卿は、相変わらず皮肉がお上手ですね。ただ、皮肉も良いですが、こちらは、まだ聖座が空いている状態であることをお忘れなく」
「そうじゃな……今のままでは、いささかこちらの分が悪い。対立法王であるレクラムの下には、反教会派の諸侯達が多く集まってきているそうじゃ。しかも、聖ルゴーニュの残党や、前法王近衛騎士団からもかなりの数が向こうの陣営にいるという報告もある」
「『世俗の腕』の軍隊だけなら何ら恐れる必要はないが、律法師や修道騎士達を、相手にするとなると厄介ですな」
「さらに、レクラムは、『扉』を手にしている。こちらで確認できている『扉』は、レクラムが有しているものだけだといって油断できない。レクラム程の実力はなくとも、ある程度の魔法の心得があるものが『扉』を使えば、修道騎士団一つに匹敵する力が出せるからな」
「レクラム・クレメンスですか……もっと早くに処理しておくべきでしたね……」
「それにしても、レクラムもよくこの八年の間、逃げ続けられることができたものですな」
「まあ、あいつも、かつては聖ルゴーニュ修道騎士団の総長まで努めた男だからな。それに、あいつの手には『扉』がある」
「『扉』ですか……確かに、それがあれば八年もの間、我々から逃げ続けることができたことも頷けますね」
「『扉』を使えば、如何なる魔法も、その積極要件の『立証』を必要としなくなるのだからな」
「そうですね。そのようなことをされては、『反証』はもとより、その魔法の消極要件を『立証』しようとしても、無意味になりますからね」
「今回の件も、レクラムが、『扉』の存在とその効果を、世俗に知らしめたことが一因となっていることに疑いはないですな」
「確かに。前の大規模な異端審問を逃れた世俗の腕の多く、特にファレンス王トアスが、『扉』にただならぬ興味を示していたということは有名でしたからね。しかし、レクラム君が、トアスに与するとは……」
「しかし、レクラムがファレンス王と手を結び、法王座を欲しがっていることは事実だ」
「では、どうします?」
「教会軍を編成しファレンス軍を迎え撃つしかあるまい。問題なのは、その総司令官を誰にするかじゃが……」
「わたしは、第一審問管区長が、その任に適していると思います」
「ルクト殿か……まあ、この『扉』を含めた『聖女』問題については、彼ほどの適任者はいないと思うが……」
「レファンダイン卿は、彼に何かご不満でも?」
「いや、そうではない……そうではないが……」
「おそらく、レファンダイン卿は、ルクトさんが、オステル殿のお弟子さんだったことが気になさっているのでしょう?」
「……」
「まあ、確かにオステル殿については、我々も判断しかねることが多い。しかし、ここはルクトに任せても良いとわしは思う。今回の件は、『扉』を含めた『聖女』問題を一気に解決する好機ではないじゃろうか?」
「そうですね。この件を『聖女』問題と捉えれば、ルクトさんほどの適任者は他にはいませんしね。私も、彼が教会軍総司令官、『教会の旗手』として一番ふさわしいと思います」
「私は異議はないですぞ」
「レファンダイン卿はどうじゃな?」
「……私も異議はありません……」
「では、法王選出会議の名の下、第一審問管区長ルクト・ハンザ枢機卿に対し、教会軍総司令官に任命することを決定する」