第二章 再会は曖昧な輪の内側で Ⅳ-ⅷ 【イリシス】
「さて、お兄ちゃんが黙っていなくなった理由を教えてもらいましょうか?」
わたしは、「あっ、そういえば……」と言って立ち上がろうとしたお兄ちゃんを椅子に座らせると、そう切り出した。
「その前に、トイレに行ってもええ?」
「ダメ」
「ええやん、じゃないと漏らしてしまうぞ」
「漏らしてもいいよ」
このわたしの言葉に、お兄ちゃんは口を噤んだ。
本当に、往生際が悪いよ……情けなくなっちゃう……。
ここまで来たんだから、もっと堂々として欲しいよ、まったく……。
しかし、わたしは、このお兄ちゃんの情けない態度に対して、とても懐かしさ……それも心地よい懐かしさを感じていた。
わたし……本当に、お兄ちゃんと再会することができたんだ……。
追い求めていた人の情けない姿を見て、満たされるなんて……ちょっとイヤだけど、今わたしは、とても満たされている。
……でも……お兄ちゃんは、わたしに黙っていなくなった事実は変わらない……。
この事実がある限り、また、お兄ちゃんがいなくなってしまうかもしれない。
……そんなのイヤだよ。
せっかく会うことができたのに……また、お兄ちゃんと離れ離れになるなんて……そんなの絶対にイヤだ……。
わたしは、理由を知りたい。
お兄ちゃんがいなくなった理由を知りたい。
お兄ちゃんは、わたしのことが嫌いになったから、いなくなっちゃったの?
わたし、お兄ちゃんにそんなに嫌われることをしたの?
わからないよ……。
教えてよ……。
応えてよ……。
……そうじゃないと……わたし……
また、ひとりぼっちになっちゃうよ……。
わたしは、込み上げてくる涙を抑えることができなくなってしまった。
「イ、イリシス、どないしてん?」
わたしが急に泣き出したのを見て、お兄ちゃんが慌てて立ち上がり、わたしのすぐ隣に来てくれた。
そんな兄ちゃんの行動が、さらにわたしの涙腺を弱くしていく。
「ううっ……えぐっ、えぐっ」
三年前のあの日から重ねてきた想いが、お兄ちゃんと再会したことによって一気に溢れ出してしまった。
お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………。
お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………。お兄ちゃ………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。お兄ちゃん…………。
「お兄ちゃん!」