剥き出しの食卓
不意に、視界が真っ赤な地獄に変わった。
あれ?
もしかしてなんか人間ではない
なにかになってしまったみたいだ。
さっきまで冷たい水の中で、
ただ無心に触角を揺らしていたはずの
「私」は、今、巨大な鉄の板の上に叩きつけられている。
「……ッ!? あ、うぅ!!!」
叫びは泡となって消える。
鉄板の熱が、私の柔らかな腹を、
内臓を、一瞬で焼き焦がしていく。
逃げ場なんてない。巨大な鉄のヘラが、
抗う私の背中を容赦なく押し潰す。
「ジューッ」という心地よい音。
人間どもにとっては、食欲をそそる芳香なんだろう?
ふざけるな。
これは私の、肉が、脂が、
沸騰して弾ける絶望の音だ。
激痛が脳髄を突き抜ける。 気絶することさえ許されない。
次に襲ってきたのは、鋭利な刃の感触だ。
生きたまま、まだ心臓が動いているこの体を、
首の付け根から一気に引き裂かれる。
バリバリと音を立てて剥がされる殻。
それは、私の皮膚であり、鎧であり、存在そのものだった。
かすかな意識が、熱気と血の匂いの中で遠のいていく。
薄れゆく視界の向こうで、着飾った人間どもが「美味しそー!」なんて、
仮面みたいな笑顔で箸を動かしているのが見えた。
「はーーー? 美味しそう、だぁ……? 殺してんの、分かってんのかよ、偽善者が!!」
「何が『命をいただく』だ、
何が『感謝』だよ!
結局、自分たちが生きるために、
弱い奴をなぶり殺して食ってるだけだろうが!
所詮、お前らなんてそんな程度の生き物なんだよ」
牛も、豚も、鶏も。
見えない場所で、こうして悲鳴を上げながら肉の塊に変えられていく。
人間を一人殺せば「殺人罪」で大騒ぎのくせに、私たちが何億匹なぶり殺されようが「贅沢なディナー」で済まされる。
この世は、どこまで人間に都合良くできてるんだ。
「全員死んでくれ、頼むから」
最後の一刺し。
私の頭が、胴体から完全に切り離される。
これ死刑より酷くないか?
正気じゃないだろ?
やられてみろよ、こんなの。
意識が暗闇に溶け落ちる瞬間、
私は最後の一滴の力を振り絞って、
その「美しい食卓」を呪ってやった。
あとに残ったのは、人間の飽くなき食欲という名の、無機質で醜い残骸だけだった。




