第5話 魔導士
翌日、冒険者ギルドは朝から騒がしかった。
「例の森、立ち入り注意だってさ」
「狼だけじゃなかったらしいぞ」
「精霊が出たって話、本当か?」
ざわめく群衆の視線の先にいたのは、昨日の依頼を共にしたパーティだった。
リーダーが、受付前で報告書を提出している。
「……以上が、事実です」
簡潔だが、誤魔化しのない内容だった。狼型魔物の数が依頼内容と違っており、森の奥に闇の精霊が存在していたこと。
そして――それと、交渉した者がいたこと。
「精霊と……交渉ですか?」
受付嬢が、思わず聞き返す。
「ええ。こいつが」
リーダーは、迷いなく俺を指した。視線が、一斉に集まる。昨日まで、荷物持ちとして見られていた視線とは、まるで違った。
「新人魔導士のリオンだ。魔力量は最低ランクだが……判断と知識は、俺たち全員より上だった」
ざわり、と空気が揺れた。
「闇の精霊と対話し、境界を定めた。無理に戦えば死人が出てた。だが、こいつのおかげで森は静かになった」
その場にいた冒険者たちが、息を呑む。
「……そんなこと、できるのか」
「精霊と話す、だと?」
受付嬢が、ゆっくりとこちらを見る。その目には、最初に見た憐れみはなかった。
「リオンさん」
「今回の件、ギルドとして正式に記録します」
書類に、新たな項目が書き足される。
「依頼達成。加えて――」
一拍、置いてから、
「危険区域の事前把握および、未然回避の功績」
周囲が、どよめいた。
「これは、立派な功績です。戦闘ではなく、判断によるものですが……冒険者にとって、最も重要な力のひとつですから」
リーダーが、短く笑う。
「だとよ。良かったな」
弓使いのエルフが、俺の肩を軽く叩いた。
「ほらね。言ったでしょ、アンタ異質だって」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
魔力量最低ランク。剣も振れない。派手な魔法も使えない。
それでも――
“見て、考え、判断する魔導士”として、俺は初めて認められた。
「……ありがとうございます」
それしか、言えなかった。
受付嬢は、少しだけ微笑んだ。
「これから忙しくなりますよ、リオンさん。精霊、魔力異常、不可視の危険……そういう依頼は、あなた向きですから」
役職は、変わらない。今も俺は、魔導士だ。
けれど――その意味は、確かに変わった。
俺は魔導書を抱え直し、ギルドの掲示板を見上げる。
そこには、今まで見えなかった選択肢が、確かに存在していた。
――これは、無能と思われていた魔導士が、
“必要とされる存在”になるまでの、ほんの始まりの物語だ。




