アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 34話 宿直室
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく宿直室。
あさぎは1人、室内を見回し佇んでいた。
「……まさか、こんな部屋があったとは。」
校舎の片隅に位置する6畳ほどの和室には、時代を感じさせるちゃぶ台と申し訳程度のキッチン、押し入れを開けると3人分の布団が収納されていた。
「布団もちゃんと手入れされてるし……。もしかして牡丹さん、ちょくちょく泊まってる……?」
あさぎは教頭先生、改め牡丹に渡された宿直室のカギに視線を落とした。
「……まあいっか。なんだか旅行みたいでテンション上がるなあ♪」
すりガラスの窓の外を見れば、真っ暗な夜空。現在時刻、夜の8時。
ぼーっと寛いでいると、ドアノブが回る音がして教頭先生と長い白髪の女性、改め雪が入って来た。
「お待たせあさぎちゃん。」
「……こんばんは。」
「お疲れ様です。牡丹さん、雪さ
「いよっっし私の勝ちぃ!」
「むぅ……。」
あさぎが挨拶をするや否や、教頭先生はガッツポーズをして雪はむくれた。
「『勝ち』……?」
「あさぎちゃんがどっちの名前を先に呼ぶかで勝負をふっかけられました……。」
「へ、へえ……。」
「今日の出前は雪ちゃん持ちね♪」
「賭博の種にされてたんですか……。」
「ほんと、教育者の風上にも置けません。」
雪は慣れた手つきで置き電話のボタンを押すと、
「すみません、出前の注文を。……はい、池図女学院までお願いします。カツ丼大盛り3つと親子丼大盛り1つ、
流れるように出前の注文を始めた。
「雪さん、ここに通ってるんですか?」
「ちょくちょく来てるわよ♪」
「白ちゃん先生はこのこと知ってるんですか?」
「私は教えてないわねえ?聞かれてないし☆」
「母親が職場にちょくちょく通ってるとか、嫌過ぎる……。」
「あんかけそば大盛り1つと天ぷらうどん1つ、
「っていうかどんだけ頼むんですか……。」
「雪ちゃんもちだから心ゆくまで食べる気みたいね♪」
「えぇぇ……。」
「……牡蠣フライ1人前に焼き鳥2人前で。支払いは現金でします。……はい。」
電話が切れる音がすると、向こうを向いたままの雪の顔が赤くなっていた。
「すみません、少々はしゃいでしまいました……///」
「べ、別に良いんじゃないですか!?週末くらいはしゃいでも……!」
「あさぎちゃんは、そう……思う?」
「へ?あ……、はいっ!」
あさぎが肯定すると、雪がものすごいスピードであさぎに迫りあさぎの両手を包み込むように握った。
「あさぎちゃんともマブダチになれるかも……!///」
雪はキラキラした眼差しであさぎを見つめてきた。
「……、」
そして教頭先生は2人を遠巻きにニコニコ……と言うよりニマニマと見守っていた。
「あはは……。」
あさぎが反応に困っていると、いつの間にか雪の手はあさぎの手から離れ、指先であさぎの襟足をくるくると巻き取っていた。
「これからもよろしく……お願いします……♪///」
「はっ!?///…………はひっ//////」
息が当たる距離で、目尻には僅かに涙を溜めほのかに頬を染め、雪解けのような温かい眼差しを向ける雪の笑顔は、あさぎに雪が顧問の母親である程の歳の差を最も容易く忘れさせた。
「堕ちたわね……。」
「おおお堕ちてませんっ!?///」
「堕ちる……?」
「あさぎちゃんはもう雪ちゃんのことが大好きって意味よ♪『藍ちゃん』だって同じ反応してたでしょ?」
「確かに……!?」
『藍ちゃん』は教頭先生と雪がかつて池図女学院の生徒だった頃の親友である。
「『藍』も苦労人だったんですね……。」
あさぎが『藍』を呼び捨てにしているのは、現在のあーかい部の部室で幽霊の『藍』と接触済みだからである。
「〜♪」
「……ほんと、気に入ってますね。」
あさぎは依然、雪に襟足を弄ばれていた。
「週末なのではしゃぎます。」
「……くっ、」
あさぎは自分の言葉が返って来たことと、目の前の推定母親より年上の女性に見惚れてテンパっている事実に耐えかねて息を漏らした。
「……。」
少し経つと雪の手がぴたりと止まった。
「……雪さん?」
「……シャワーを借りて来ます。」
「どうぞ〜♪」
教頭先生が快諾すると、雪は荷物を持って宿直室からふらっと出て行った。
「シャワーなんてあるんですか?」
「狭いけどね。」
「…………。」
「あさぎちゃんも使って良いわよ?」
「いや、ありがたいんですけどそうじゃなくて……。」
「どうしたの?」
「白ちゃん先生って、なんで雪さんのこと嫌ってるのかなって……。」
「あさぎちゃんには、雪ちゃんが非の打ち所がない美人に見えたのかしら♪」
「いや、まあ美人だとは思いますけど……。けっこう抜けてるっていうか、でも嫌われるタイプではなさそうなんですけど……。」
「そっか。まだ雪女モードは見てなかったかしら……。」
「雪女……?」
あさぎは教頭先生の家で雪と初めて会った日、ほんの一瞬ではあったが身体の芯まで凍てつくような絶対零度の眼差しを向けられたことを思い出した。
「もしかして、あの時の……?」
「そうそう、たぶんそれ♪」
「なんて大雑把な……。」
「あの子すっごい恥ずかしがり屋さんだから、心を許してない人には隙を見せまいと……ああなっちゃうの。……学生時代からの悪癖ね。」
「そうなんで…………あれ?じゃあ私は
「早々に心を許してもらえたみたいね。『藍ちゃん』に似ていたからかしら?」
「なるほどそれで……、って、それと白ちゃん先生がつながらないんですけど。」
「言ったでしょ?あの子、隙を見せるのがとっても恥ずかしいって。」
「もしかしてその悪癖が、実の娘にも……?」
2人が話していると、遠くでぞろぞろと大人たちが歩いてくる足音がした。
「でもこれは大人の私たちがどうにかするお話よ。湿っぽいお話はおしまいにして、晩御飯にしましょう♪」
「え
あさぎが返事をする間もなく宿直室のドアが外から開けられると、雪が出前の人たちをぞろぞろとひき連れてきた。
「……ちょうど。」
雪は現金ちょうどを渡して出前の人たちを引き上げさせた。
「……///」
ラフなTシャツに着替え髪を下ろした雪の姿は、あさぎにはたまらなく色っぽく見えた。
「……?」
あさぎが息を呑んで固まってるのを不思議に思った雪があさぎの襟足と戯れると、ようやくあさぎは我に返った。
「ゆゆゆ、雪さんっ!?///」
「こんばんは……?」
「こ、こんばんはっ!」
「フフwww」
「ちょっと、なに笑ってるの牡丹ちゃん。」
「ごめんなさw……なんでも、ないわ……w温かいうちにいただきましょう……ww」
3人は丸いちゃぶ台を囲んで座った。
「あさぎちゃん、心ゆくまで食べましょう……っ。」
「はしゃいでますね……。」
「週末だもの♪」
「食べきれるかなあ……。」
「それは心配いらないわ。」
「え?」
教頭先生が指差した先で、雪は黙々とちゃぶ台に並んだ食事を一つ一つ平らげていた。
「凄っ……!?」
「早く食べないとあさぎちゃんの分が無くなっちゃうわよ?」
「いい、いただきますっ!?」
以降、夜の宿直室で慌てて自分の食事を確保しては部室で幽霊と戯れるのがあさぎの新しい不定期行事になった……。




