表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ
第3章 覇王激突編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/75

56.襄陽防衛戦

建安13年(208年)7月初旬 荊州 南郡 襄陽


 続々と曹操の軍が、襄陽周辺に布陣していく。

 俺は樊城の上からその様を眺めながら、状況を確認していた。


漢中かんちゅう建業けんぎょうの周辺はどうなっている?」

「はい、漢中方面では長安に曹洪そうこう辛毗しんぴを中心に約3万の兵が入っております。もう一方の建業方面では、合肥ごうひ李典りてんを中心に、やはり3万の兵が集まっているようです」

「ふむ、思ったより少ないな。せっかく黄忠と程普を貼りつけたのに」

「まあ、こんなものでしょう。あちらも主攻方面はこの襄陽と、見定めたのでしょうな」

「ああ、そのようだな」


 漢中と建業にはそれぞれ2万ほどの兵がいるので、1.5倍の敵をひきつけたと考えれば、そう悪くないかもしれない。

 俺は気を取り直して、目の前の状況に意識を向ける。


「それで、こちらの布陣状況は?」

「はい、すでに17万の兵が、樊城を中心に布陣済みです」

「そうか。兵たちの状態は?」

「特に混乱もなく、落ち着いているようですな」

「それは良かった」


 今回、俺たちは全体で、21万という大兵力を動員した。

 これは華南の人口の1%ほどに当たり、経済や生産活動に影響なく動員できる限界だ。

 もちろんこれ以上の徴兵も、短期的には可能だろうが、それは社会への負担が大きすぎる。


 そして漢中と建業に各2万を振り分け、この襄陽に残り全てをかき集めた。

 その内訳は樊城に2万、東西の支城に各5千、そして漢水南岸の襄陽にも後詰めで1万を配置。

 さらに水軍1万が漢水を守り、残り12万人が城外に布陣していた。


 ちなみに樊城は1キロメートル四方ほどの城で、城壁の高さは10メートルもある。

 襄陽城の方はもっとでかくて、3キロメートル四方もある。

 襄陽城だったら、それこそ10万の兵士も収容できるだろうが、あいにくと漢水の南岸だ。

 なので浮き橋で樊城とつなぐことで、巨大な兵站拠点として機能する。


 すでに味方は総兵力で敵に劣っているが、城と連携できるので心配はしていない。

 こちらは城壁上から攻撃できるし、兵士を城内で休ませたりしやすいからな。


 対する敵は許都から進軍してきて、すでに疲弊しているし、長期戦になるほど士気の低下と疲労は避けられない。

 焦らずに対処すれば、十分に勝ち目はあるはずだ。


 やがて敵の編成を観察していた周瑜が、気づいた点を口にする。


「ふむ、それにしても騎兵が多いようだね」

「ああ、幽州の突騎兵は有名だからな。烏丸うがんを従えてから、増強したんじゃないか」


 魯粛が収集した情報によれば、敵の騎兵は3万にもなるという。

 しかもそのうち1万は重装騎兵だというんだから、相当なものである。

 ここでいう重装騎兵とは、兵士だけでなく馬も鉄の防具で覆った騎兵だ。


 それまでの軽装騎兵なら、強弩の集中攻撃で、ある程度対処できる。

 しかし重装騎兵ともなると、強弩の攻撃にもひるまず、歩兵を蹂躙できるという。

 もっとも、それには大重量に耐える馬が必要なので、そうそう数を揃えられるもんじゃない。

 だから重装騎兵だけで1万てのは、相当に気合いの入った編成と言えるだろう。


 対する我が軍も、騎兵は増強していた。

 しかしなんとか1万を揃えた程度であり、重装騎兵はたったの千騎だ。

 敵との差は、重装歩兵と城からの支援で埋めるしかない。


 やがて準備が整ったのか、敵の一部が動きはじめた。


「敵の前衛が動きはじめました。どうやら3軍に分かれて、樊城と支城を攻めるようです」

「まずは小手調べといったところか。こちらは敵の動きを見て、指示を出そう」

「ああ、そのための訓練は、さんざんしたからな」


 俺と周瑜、そして魯粛は、樊城の城壁上で指揮を執るべく、陣取っていた。

 さらに城壁の一段高いところには目のいい兵士を配置し、敵の動きを報告させている。

 その情報から俺たちが作戦を決め、軍鼓ぐんこと手旗信号で部隊に指示を出す方法を確立していた。


 そのやり方は軍鼓のリズムで部隊を指定し、手旗で動きを指示するものだ。

 簡単な符牒の組み合わせで、例えば ”Aは西を回って、敵の側背を突け” なんて指示ができる。


 これは樊城だけでなく、東支城には黄蓋こうがい陸遜りくそんを、西支城には韓当かんとう龐統ほうとうを配置し、同じように指示を出すようになっている。

 これによって10万を超える大軍を、柔軟に運用するのが狙いだ。

 普通はいちいち伝令を走らせるのに比べ、格段に伝達速度が速い。

 さらに城壁上からの援護も合わせれば、少々の数の不利はくつがえせるだろう。


 やがて敵の一部が前進してきて、矢戦やいくさが始まった。

 味方は地上の弓兵だけでなく、城壁上からも矢を撃ち放つ。

 敵前面の歩兵は盾を掲げているが、味方のすさまじい矢の雨に、手傷を負うものが続出していた。

 それにもひるまず前進した敵兵が、味方と矛を交える。

 振り下ろされた武器が、容赦なく敵を打ち、その肉をえぐって、血しぶきが舞う。


「ふむ、周泰しゅうたいを少し下げて、呂蒙りょもうを前に出そうか」

「ああ、いいんじゃねえか。おい、周泰を少し下げて、呂蒙を前に出せ」

「はっ、了解しました」


 指示を受けた伝令が、信号係のところへ走ると、軍鼓の音が響き、手旗が振られる。

 それを受けた当該部隊が、それぞれ動きはじめた。


「ふむ、上手くいってるようだね。これはちょっとした革命だ」

「まあ、今回みたいな戦じゃないと、使えないけどな」

「それにしたってさ。こうも自由に兵を動かせるなんて、指揮官冥利に尽きるよ」

「ハハハ、周瑜らしいな」


 天才的な戦術家である周瑜にとって、大軍が手足のように動かせることは、何よりも心地よいのだろう。

 おかげで小手調べとはいえ、味方の損害を抑えた状態で、戦況は推移する。

 やがて攻めきれないと悟ったのか、敵軍が撤退を始めた。


「まずは判定勝ち、といったところかな」

「いえいえ、損害の少なさでいえば、圧勝でしょう。お見事でした」

「フフフ、ありがとう。とはいえ、まだまだ戦いは始まったばかりだ。気を引き締めないとね」

「ああ、そうだな。たぶんいろいろと、嫌がらせもしてくるだろうし」

「当然、こっちもやるんだろう?」

「そりゃそうさ。な、魯粛」

「ええ、すでに仕込みはしてあります」


 そう言って笑う俺たちは、いたずら小僧のようだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後しばらく、曹操軍は地味な攻撃に徹していた。

 小規模な部隊を小刻みに前へ出し、チクチクとこちらの戦力を削る戦法に切り替えたようだ。


「えらく消極的になったな」

「被害が予想以上に多くて、様子を見ることにしたのかな?」

「いや、たぶん、それだけじゃないな」


 そう言って魯粛の方を見れば、彼がうなずきを返す。


「はい、えん州と州に、大規模な動員令が出されたようです。20万どころか40万もの大軍を、ここへ投入する勢いだとか」

「やっぱりか。俺たちを数で押しつぶすつもりだな」

「フフフ、それぐらい、予想できていたじゃないか。というよりも、こちらの望むところだよね」


 楽しそうに指摘する周瑜に、俺も笑って返す。


「ハハ、まあな。20万をひねり出すだけでも驚きだってのに、その倍の兵士を駆り出すんだ。影響がないはずがない」

「ああ、大きな隙ができるはずだ」


 華北の人口は3千万人近いので、40万でも60万でも、徴兵は可能だろう。

 しかしそれは社会に大きな負担を強いるし、治安だって悪化する。


 ちなみに史上初めて中国を統一したしんは、人口2千万のうち2百万人も動員していたという。

 人口の1割が軍隊とは、侵略に侵略を重ねた戦闘国家ならではの異常事態であろう。

 それゆえに、崩壊も速かったんじゃないかと思う。


 何が言いたいかというと、身の丈を超えた動員なんかすれば、その反動もでかいってことだ。

 たしかに曹操は華北を平定したが、その統治状況はまだまだ不安定なはずだ。

 いくら魏王として権威を強めたとはいえ、それになびかない勢力はいくらでもいる。

 そんな奴らが騒ぎ出したら、いかな曹操とて耐えきれまい。


 ただし曹操陣営も、似たようなことを考えているのは想像に難くない。

 両陣営ともに、戦闘以外の謀略も動きはじめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備ファンの方は、こちらもどうぞ。

逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~

白帝城で果てた劉備が蘇り、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ