表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ
第3章 覇王激突編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/71

51.中原からの刺客 (地図あり)

建安10年(205年)7月 揚州 丹陽郡 建業


「はぁ? 南陽なんよう郡が、俺の傘下に入りたがってるって?」

「はい、韓嵩どのから、そのような連絡が」

「え~、マジかよ……」


 通貨政策について方針が固まり、ひと息ついていたら、思わぬ知らせが入ってきた。

 曹操の勢力圏にある南陽郡が、俺の傘下に入りたいと言ってきたらしいのだ。


 たしかに南陽郡は荊州の一部なので、俺の勢力圏でもおかしくない。

 しかしここを牛耳っていた張繍ちょうしゅうが曹操にくだって以来、彼の傘下に収まっている。

 南陽郡自体が中原と地続きなので、あまり違和感がないってのもありそうだ。


 逆に俺にとっては、襄陽が戦略上の要衝になるため、それより北の南陽は足手まといに近い。

 そのため襄陽から北へは手を出さず、好きなようにさせていたのだ。

 しかし平和になって久しい荊州の南側に比べ、南陽郡は荒れたままだった。


 役人の横暴や山賊の跳梁ちょうりょう、天災による食糧不足など、厄介事には事欠かない。

 おまけに曹操が華北に軍勢を振り向けるもんだから、治安も良くなるはずがない。

 そんな状況に見切りをつけた難民が、襄陽以南へ逃げてくるのも当然だろう。


 当然、民に逃げられた側は、俺に文句をつけてくる。

 しかしこちらも手の打ちようがないから、適当にいなしてきたのだ。

 そしたらいつの間にか、”税金は納めるので、俺たちも守ってください” ていう奴らが出てきた。

 ”まあ、襄陽の近辺だったらいいか” と受け入れてたんだが、それが南陽郡全体にまで広まってしまったらしい。


「うわ、どうすんだよ、これ。絶対に揉めるよな? 曹操と」

「間違いないね。しかもこれ、噂が広まったら九江きゅうこう郡と広陵こうりょう郡も、一斉になびくんじゃないかな」

「ええ、その可能性が高いですね」


 俺の問いかけに、周瑜と魯粛が他人事ひとごとのように答える。

 逆に張昭は、南陽郡の肩を持つようなことを言う。


「しかし無下に断ることもできないでしょう。元々、南陽郡と九江郡は、我らの統治範囲なのです。許都へ使者を送って、交渉してはいかがですかな? 職頁しょくこうは納めると言えば、それほど抵抗もないでしょう」

「う~ん、それが筋なんだが、問題がふたつほどあるな」

「はて、どのような問題ですかな?」


 張昭の問いに、俺は地図を示しながら説明する。


「まず俺たちが南陽を取ると、許都に近くなりすぎる。表向きは味方といえど、曹操は警戒せざるを得ないだろう?」

「ふ~む、我々が許都を襲うと考えるのですな」


 史実でも、関羽が襄陽・樊城はんじょうを攻めた際に、許都からの遷都せんとが検討されたぐらいだ。

 襄陽から許都でも直線で300キロくらいしかないのに、それが100キロかそこらになれば、とても安心はできないだろう。


「たしかにそれは悩ましいですな。して、もうひとつは?」

「仮に南陽を受け入れたとすると、守る場所が何倍にも増えるんだ」

「それは……ふむ、たしかにそうですな」


 現状、襄陽で守りを固めようとしているのは、ここが守りやすいからだ。

 襄陽は西の大巴だいは山脈と、東の大別たいべつ山脈に挟まれる位置にあり、敵の侵攻経路を限定しやすい。

 もちろん襄陽付近だって相当に広いが、中原と地続きの南陽郡とは、守りやすさが段違いである。


 もしもそこを守ろうとすれば、いくつもの城を整備して、何万もの兵を配置せねばならない。

 それは兵力的に劣勢な孫呉としては避けたいし、そもそも曹操が許さないだろう。

 すると周瑜が、冷たいことを言いはじめた。


「まあ、それは無理に守ろうとしなければ、いいんじゃないかな。今までどおり、襄陽の守りを固めていればいいのさ」

「おいおい、そんなんで民が納得するか?」

「そもそも曹操は味方なんだから、攻めてくる方が悪いんだよ」

「いや、それはそうだけどさ……」


 微妙に納得いかないが、周瑜の言うことはもっともだ。

 すると魯粛からも、提案があった。


「それであれば、南陽への軍備は最低限にすることで、もうひとつの問題も片づくでしょう。山賊の討伐など、治安に必要な部隊だけを動かすのであれば、それほど危機感を持たれないと思います。こちらが軍を動かす際に、あらかじめ連絡しておけば、なお良いでしょうな」

「う~ん、なるほど。それならいける、か?」


 それを聞いていた張昭が、対策案をまとめる。


「なるほど。丞相閣下と朝廷に対して、危機感をあおらないことを強調すれば、いけるかもしれませんな。素案をまとめますので、後ほどご確認をお願いします」

「ああ、頼んだ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安10年(205年)9月 揚州 丹陽郡 建業


 ハロー、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 南陽郡が俺の傘下に入ることについて、朝廷を通して曹操に打診したら、案外あっさりと了承された。

 もちろん職頁をしっかり納めることと、軍を動かす時の事前連絡について、入念に話し合った結果だ。


「南陽郡の件、思ってたよりも簡単だったな」

「ああ、ちょっと気味が悪いくらいだね」

「ですけど、こちらもかなり譲歩したんですよね?」

「みんな戦争なんかしたくないんだから、そんなもんっしょ」


 そんな話を周瑜、陸遜、呂範としながら、俺は行政府の中を歩いていた。

 俺の言葉に三者三様で返してくるが、誰も深刻に考えてる風ではない。

 そんなのんびりした空気の中、うら若い女官たちとすれ違った。


 4人いる女官はみな美しいが、どれも見覚えはない。

 我が陣営では人も仕事も増え続けているので、新たに入った者たちだろう。

 しかしなんとなく女官を見ていたら、俺の中に違和感が生じる。


 そして”はて、なんだろうか?” と思う間もなく、俺の体が勝手に動いた。

 俺の手がすばやく剣を抜いて、女官の1人に斬りつけたのだ。


「「「キャ~~~ッ!」」」


 おいいっ、ソンサクぅ!

 何してくれてんだ、お前っ?!

 しかし女官の1人を斬り捨ててもなお、ソンサクは剣を構えたまま、警戒をゆるめない。


「孫策! 一体、どうしたんだい?!」

「なぜこんな無体なことを?」

「とうとう狂ったんすか、兄貴!」


 うるせ~、俺がやったんじゃねえんだよ。

 ん? なになに?

 こいつら、身のこなしが怪しい?

 たぶん刺客だと?


 脳内でそう言われて俺は、改めて女官を観察してみた。

 彼女たちは身を寄せ合い、体を震わせているが、その中の1人と目が合った。

 即座に目をそらされたが、その目に脅えはない。

 それどころか、まるで獲物を狙う獣のような、冷徹な目だったのだ。


「こいつら、刺客か密偵だ。逃がすんじゃねえぞ!」

「何?……そういうことか」

「え、そんな馬鹿な」

「そういうことすか。さすがは兄貴っす」


 周瑜と呂範が剣を抜いて囲もうとすると、女たちが身をひるがえした。

 彼女らは懐から短剣を取り出して逆手にかまえ、俺たちと無言で対峙する。

 先程までの演技はどこへやら、その表情は冷静で、いかにも暗殺者らしい雰囲気をまとっていた。

 わずかに睨み合った直後、女たちが動く。


「くっ、暗器か。気をつけろ」

「こんにゃろ」


 敵の放つ針のような暗器をかわし、俺たちは暗殺者に迫る。

 女たちの動きは俊敏だったが、しょせんは暗殺者だ。

 数多あまたの戦場で鍛えられた俺たちの、敵ではなかった。


「ぐうっ!」

「ぎゃあっ!」

「ああっ」


 逃げられそうになったので、俺と呂範が1人ずつ斬り捨てた。

 残る1人だけは、周瑜に足を切られてその場に倒れ伏す。

 すかさず周瑜はその女に駆け寄ると、当て身で気絶させた。


「ふう、なんとか1人だけは確保できたか。ケガはないかい? 孫策」

「ああ、俺は大丈夫だ。それにしてもさすがだな、周瑜」

「フフ、まあ、まぐれさ」


 周瑜はそう言って謙遜するが、まぐれのはずがない。

 俺や呂範に比べると膂力りょりょくに劣るが、彼の剣技は誰よりも洗練されている。

 俺たちが殺すしかなかった暗殺者も、周瑜に掛かればこんなものか。


「それにしても、これはどう見ても、俺狙いだよな?」

「ああ、そうだろうね。やはり南陽郡のことが、よほど気にさわったのかな」

「南陽郡って、やっぱり曹操っすか?」

「たぶんそうだ。これだけの刺客、並みの人間には動かせないだろう」

「だろうね。彼女たちの身元を探るよう、指示を出そう」

「ああ、頼む」


 覚悟はしていたが、やはり曹操を刺激してしまったようだ。

 今後はますます用心しなければと思っていると、呂範がギラギラした目を向けてきた。


「兄貴。こいつら、夏口の時の刺客と通じてるんじゃないっすか?」

「……その可能性はあるな」

「やっぱり知ってたんすね」

「いや、その可能性が高いとは、思ってた」

「ふ~ん……」


 それ以上の追求はなかったが、呂範も確信したようだ。

 これで呂範にとって曹操は、弟の仇だな。

 面倒なことにならないといいんだが。

今回、問題になったのは荊州の南陽郡。

荊州の北端に位置し、中原に接する豊かな土地です。

南側のとうのすぐ下が襄陽になり、北側の魯陽ろようから東へ100キロほど行くと許都があります。

こんな土地を取られたら、曹操もブチ切れるだろうなってお話。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


地図データの提供元は”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備ファンの方は、こちらもどうぞ。

逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~

白帝城で果てた劉備が蘇り、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ