表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ
第2章 呉王就任編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/69

43.俺に斬らせるなよ

建安9年(204年)5月 益州 しょく郡 成都せいと


 俺たちが呉王の話をしているうちに、各地に散っていた軍勢の多くが戻ってきた。

 そのほとんどは楽な平定戦を終え、戦勝に沸き返っている。

 その中から、今回が初陣になるような若者を集めて、話を聞いてみた。


「みんな、今回の実戦はどうだった?」

「はい、すごく緊張したけど、なんとかやれました」


 口火を切ったのは、弟の孫翊そんよくだ。

 彼は興奮に頬を染めながらも、誇らしそうに胸を張っている。


「そうか。ちゃんと古参兵のいうことは、聞いたんだろうな?」

「もちろんです。聞かないで失敗したら、もう戦に出れませんからね」

「僕もがんばりました!」

「私も!」


 すると孫匡そんきょう孫瑜そんゆ孫皎そんこうなども、口々に体験を語る。

 どれも小規模の戦闘しかなかったはずだが、それでも新人にとっては初めての体験だ。

 みんな、興奮もあらわに喋り続ける。


 しかしそんな中で1人、いかにも落ち込んでいる者がいた。


馬謖ばしょくはその腕、どうしたんだ?」

「うっ……矢に当たりました」


 馬謖はケガをしたのか、その左腕に布が巻かれていた。

 すると兄の馬良が、彼をかばうように言う。


「す、すみません。私がいながら、ケガをさせてしまいました。私の責任です」

「……」


 しかしかばわれた馬謖は、唇を噛みしめている。

 どうやらなにか、やらかしたような雰囲気だ。


「ふ~ん……ちゃんと周りの言うことは、聞いたんだろうな?」

「うぐ……」


 俺の確認に、馬謖は何も言えず、うつむいてしまう。

 実は今回、新人たちを送り出すにあたって、いくつか注意を与えておいた。

 例えば付けられた古参兵の言葉に耳を傾け、謙虚に行動するようにとか、あまり前に出ず、生き残ることを最優先にする、などだ。


 どうやら馬謖は、それが守れなかったらしい。

 古参兵が引き止めるのも聞かず、前に出過ぎたところを、流れ矢に当たってしまったとか。

 俺はそんな彼に目線を合わせつつ、静かに訊く。


「なあ、馬謖。なぜ俺の指示を守れなかった?」

「……別に、守らなかったんじゃありません。ただ、庶民兵が偉そうなことを言ったので、ちょっとカッとなって」

「ほう……たしか俺は、お前たちに付けた兵の言葉は、俺の言葉と同じものとして聞け。そう言ったはずだな?」

「……」


 馬謖は目をそらしたまま、何も言えない。

 そんな彼を見て、俺はため息をついた。


「は~~~……そんなんじゃもう、戦場に出せないぞ」

「な、なぜですか? たった一度の失敗で、私の将来を奪うなど、ひどいではありませんか!」


 それを聞いた馬謖が、俺に食ってかかる。

 勝ち気そうな目をいからせて抗議するさまは、ひどく幼く見えた。

 数えで15歳ならこんなものかもしれないが、だからといって許せるものでもない。


「あのな、馬謖。失敗自体は大したことじゃないんだ。人は誰でも、失敗するからな」

「ならばなぜ――」

「お前が失敗の原因から目をそむけたまま、反省しないからだ。このままでは、必ず似たような失敗を繰り返す。そんな人間に、安心して兵を預けられるはずがないだろう?」

「うぐっ」


 彼は涙を浮かべながら、唇を噛みしめる。

 その目は俺を責めていたが、それはお門違いというものだ。

 このままでは、史実でやらかした大失態を、この世界でも引き起こしかねない。


 馬謖は第1次北伐で、周りの注意も聞かずに街亭の山上に布陣し、張郃ちょうこうに大敗してしまった。

 おかげで成功しかけていた戦略が破綻し、蜀軍は漢中に撤退せざるを得なくなる。

 本当に馬謖がそこまで愚かだったのか、ちょっと疑問に思うほどの大失態だ。

 おそらく諸葛亮から期待を掛けられ、それ以上の成果を挙げようと焦った末の悲劇なのだろう。


 実際、彼は頭がいいわりに、己を客観視できていないように見える。

 そのため一時の感情で行動し、失敗をしてもそれが反省できないようだ。

 再びため息をつきながら、馬良に目をやると、彼が進み出た。


「わ、私がよく言ってきかせますので、もう一度、機会をもらえないでしょうか?」

「いや、それでは逆効果だ。しばらくは放っておけ。馬謖、別に戦場に出ることばかりが仕事ではない。文官として――」

「あっ、謖。し、失礼します」


 とうとう馬謖はその場から走り去り、馬良がそれを追った。

 俺はそれを馬良に任せ、改めて周りの新人たちに話しかける。


「いいか、みんな。失敗が悪いんじゃない。失敗から学ばないことが悪いんだ。自分たちが士大夫したいふとして、兵の上に立つ者としてふさわしいか、常に自問しろ。そうすればいつかは、良き将になれるだろう」

「「「はいっ」」」


 馬謖には悪いが、他の者にとっては、良い教訓になったかもしれない。

 彼も自分の過ちに気がつき、立ち直ってほしいものだ。

 俺にお前を、斬らせるなよ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安9年(204年)5月 益州 しょく郡 成都せいと


 各地に散っていた部隊が戻ってきたことで、益州の状況がつかめてきた。

 文官がその内容をまとめてくれたので、主な人物を集めて共有する。


「それでは益州の状況について、聞かせてもらおうか」

「はい。各部隊の報告をまとめた内容がこちらになります。端的に言いますと、かつてないほどに益州の治安が向上いたしました」


 そう言って報告するのは、益州文官の筆頭、張粛ちょうしゅくだ。

 彼は弟の張松と共に、劉璋が去った成都の役人をまとめ、政務に励んでいる。

 報告によれば、益州の漢中、巴、広漢、蜀、犍為けんい牂牁そうか越巂えつすい、益州、永昌、広漢属国、蜀郡属国、犍為属国の12郡は、おおむね秩序を取り戻しつつあった。


 それは我が軍が従来より厳正な法をもって、動いているおかげだろう。

 もちろん軍隊なんてのは暴力装置なのだから、完全に統制することなどできはしない。

 しかし俺の場合、揚州で戦ってる頃から、軍には暴行や略奪をさせないよう、徹底してきた。


 おかげでこの時代にしては、異常なほど品行方正な軍になった。

 兵糧は揚州、荊州から持ちこんでるし、軍規を乱す者は容赦なく罰するのだ。

 末端のささいな騒動は別として、軍隊として常に統制を失うことはない。


 そのため多くの地域では、解放軍のように歓迎されてるそうだ。

 そりゃあちょっと前まで、東州兵や張魯、異民族どもが暴れまわってた土地だ。

 歓迎もされるだろう。


「孫策さまの軍は、本当にすばらしいですな。領民から感謝の声が上がっております」

「ああ、それは劉璋どのと約束したからな」


 元益州牧の劉璋は、せめて民に無体を働かないでくれと言い残し、益州を去っている。

 今、彼は故郷の江夏郡に帰り、静かな時を過ごしていた。

 そのまま変な野心を持たなければ、いずれ列侯に押す予定だ。


「それで、太守の任命はこれでよろしいですかな」

「ああ、まずはそれで様子を見よう」


 今回の功績を考慮して、益州の太守を以下のように配置してみた。


漢中郡  張魯

巴郡   太史慈

広漢郡  周泰

蜀郡   黄忠 

犍為郡  蒋欽

牂牁郡  陳武

越巂郡  凌操

益州郡  呂蒙

永昌郡  甘寧

広漢属国 魏延

蜀郡属国 孫河

犍為属国 陸遜


 それぞれ名目的な配置であり、状況が落ち着いたら軍務を優先してもらうことになる。

 ただし黄忠だけは今後も益州に留まってもらい、内外に目を光らせる予定だ。


「それから水路と狼煙台の整備ですが、本当にここまでおやりになるのですか?」

「もちろんだ。俺は普段、建業にいるからな。いざという時に動けんようでは困る」

「そうですか。だいぶ費用が掛かるので、まずはやれるところから手を付けましょう」

「ああ、頼む。最近は伝書バトという通信手段も検討しているからな。モノになったら、こちらへも展開しよう」

「はい、承りました」


 この益州でも通信手段の確立を、張粛らに指示していた。

 なにせ今後は、広大な3州を守っていかねばならないのだ。

 そのためには情報伝達の速さが、大きな意味を持つ。


 この他にも、確認すべきこと、改善すべきことは山のようにあった。

 しかし何はともあれ、俺の益州攻略は、大成功に終わったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備ファンの方は、こちらもどうぞ。

逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~

白帝城で果てた劉備が蘇り、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
馬謖って現代でいうと スポーツで観戦してる外野が負けた試合に 後出しで自分ならこうしてれば勝ってたってタイプなんだろうなぁ... 理論ばっかの頭でっかちって意味で
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ