表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ
第2章 呉王就任編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/66

38.孫策の強み

建安8年(203年)10月中旬 益州 しょく郡 成都せいと


 成都近郊に野戦陣地を構築した俺たちに、劉璋軍は野戦を挑んできた。

 その数は6万人近くと、敵はありったけの戦力をかき集めている。

 対するこちらは半数程度ながら、陣地の守りで初戦を乗り切った。


「まずはこちらの優勢勝ちだな」

「そうだね。だけど敵も、こちらの守りを探ってる感じで、とても全力とは思えなかった」

「そうだな。大至急、ケガ人の手当てと、陣地の補修をしよう」

「ああ、すでに手配してあるよ。それが落ち着いたら、陣地内を巡察してくれるかな。兵士の士気を保っておきたい」

「あ~、そうだな。大将が気にかけてくれると知れば、多少は違うか」

「そういうことさ」


 その後、被害状況を確認すると、なんと50人近い死者と、その何倍ものケガ人がいると分かった。

 ただし敵にはその5倍は被害を与えてるので、分の悪い戦いではない。

 このまま戦いが推移すれば、やがて兵力差もなくなると思えるほどだ。



 しかしその日の夜になると、また敵に動きがあった。


「敵が夜戦の動きを見せてるって?」

「ああ、なにやらゴソゴソやってるらしいよ」


 昼間の無理攻めでは、犠牲が大きすぎると分かったのだろう。

 さっそくその日のうちに、夜戦を仕掛けてくるという。

 ただしそれはこちらの密偵に察知され、万全の構えで待ち受けられそうだ。


 そして深夜12時を過ぎた頃、敵が動きだした。


「敵襲~~!」

「迎撃だ!」


 夜陰に乗じて接近した敵に気づき、警告が発せられる。

 すると隠れる必要のなくなった敵から、無数の矢が飛んでくる。

 雨のように降り注ぐそれは、味方の一部にダメージを与えた。

 だが陣地にこもっている味方には、大した被害がない。


 やがて木柵を乗り越えようとする敵が、顕わになった。

 それもすごい数がだ。

 どうやったかは分からないが、妙に士気が高い。


 敵はこちらの視界を奪おうと、たいまつの火を消しに来た。

 しかしそれもお見通しの我が軍は、戦場に新たな明かりを投入した。


「着火……放てっ!」


 ポンッという音と共に火の玉が放たれ、それが木柵の向こうへ落下する。

 それは木片に燃焼剤を塗りつけた、投擲用の松明たいまつだ。

 松脂や木炭、油などを混合し、火が消えにくく、長持ちするように調整してある。

 例のごとく、諸葛兄弟の作品だ。


 これを木柵の向こうに落ちるよう調整した投石機で、何十個も撃ちだした。

 投射地点の近くの草木は刈ってあるので、火事になる心配も少ない。

 そんな松明の明かりによって、敵兵の姿があぶり出される。


「放て!」


 夜闇に浮かび上がった敵兵に向けて、今度はこちらから無数の矢が放たれた。

 高い位置から放たれる弓射は、それだけで圧倒的に有利だ。

 木柵に取り付いた者、すでに乗り越えた者、これから取り付こうとする者たちに、無情な矢の雨が降り注ぐ。

 それは無惨に敵の肉をえぐり、つらぬき、命を奪っていく。


 もちろん敵は明かりを消そうとするが、松明は継続的に供給される。

 それにあぶり出された敵に、さらに多くの矢が降り注いだ。

 その損害比は味方が圧倒的に有利であり、しばし一方的な殺戮劇が繰り広げられる。


 やがて夜戦でも勝ち目がないと悟ったのか、敵が一斉に撤退していった。


「フウ、なんとかしのいだようだね」

「ああ、これで諦めてくれればいいんだがな」

「まさか。こんなのは序の口さ」

「だよな~……だけど、それなりに痛い目をみたから、多少は慎重になるんじゃないか?」

「そうだといいね」


 多分に希望的観測を含んだ声を掛け合いながら、夜はふけていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安8年(203年)10月下旬 益州 蜀郡 成都


 初日に痛い目を見た劉璋軍は、さっそく戦術を変えてきた。

 力ずくの強攻をやめ、多数の小部隊を繰り出しながら、こちらの戦力を削り取る戦法を取ったのだ。

 向こうにも切れ者がいるようで、なかなかよく考えている。


 しかしこちらも即座に、対応を切り替えた。

 信頼のおける武将を前線に配置し、こまめに兵士を監督させたのだ。

 そのうえで基本は陣地にこもって、防戦に専念する。


 なにしろこちらには黄忠や太史慈を筆頭に、数多の猛将と孫一族の親類もいる。

 指揮官には困らないので、安心して現場の指揮を任せられた。

 その中には孫権、孫翊、孫匡、孫郎という弟たちもおり、貴重な実戦経験を積ませている。


 一方、全体を統括する指揮所には、孫策おれと周瑜、魯粛が詰めて指揮を執った。

 中でも縦横無尽の活躍をしたのは、周喩である。

 こいつは本当に頭のいい男で、古今の兵法や過去の戦例に精通しているし、軍隊の統率にも明るい。

 そして何よりも情報を重視し、さまざまな状況を想定してから、必要な手を打つのだ。


 そんな彼に対し、魯粛は主に情報を提供し、俺は未来知識とソンサクの直感でサポートしていた。

 ソンサクの直感って、なんだと思うだろ?

 だけどこれがなかなか、馬鹿にできないんだぜ。


 ソンサクという人間は、5感から得た情報を脳内で統合し、経験に照らし合わせて、最適解を導くのに長けている。

 もちろん情報が間違っていたり、足りなかったりすれば駄目だ。

 しかし適切な情報を得た時の、決断スピードと成功確率は尋常でない。

 その過程が見えないので、傍からはただ勘で動いているようにしか見えないけどな。


 おかげでソンサクは、的確に攻めるべき場所とタイミングを嗅ぎ当て、それを実行してのける。

 それは将として実に有用な資質であり、史実で孫策が勝ち続けられた、彼の強みなんだと思う。

 そんな彼の直感に従って、今日も俺は助言をする。


「そろそろ、裏の河からも攻撃があるんじゃないか?」

「何か、兆候があったのかい?」

「いや、ちょっと説明が難しいんだが、ありそうな気がしてな」

「ふむ……たしかに今までは小規模な攻撃しかなかったけど、大規模攻撃の前触れと考えれば、納得がいくか。魯粛、上流を調べられないかな?」

「分かりました。ただちに密偵を放ちましょう」

「ああ、頼むよ」


 こんな感じで上流を調べてみたら、やはり敵は大規模な船団を準備していた。

 おかげで事前に罠を仕掛けたり、兵力配置を変更したおかげで、被害は少なくて済んだ。

 もちろん孫策おれの株が上がったことは、言うまでもない。


 そんなこともありつつ、俺たちは敵と半月に渡って殴り合った。

 ただしこちらは野戦陣地を盾にして戦ったのに比べ、攻めるばかりの劉璋軍の被害は大きい。

 数的に上回っているうちに、俺を討ち取らねばならないため、必死だったというのもあるだろう。


 しかしそんな数的優位も、とうとう崩れる時がやってきた。


「北方より龐統どのの軍、1万が接近しつつあります」

「南方からは陸遜どのが、やはり1万の兵を率いております」

「へへへ、とうとう来たか」

「ああ、予想よりも少し早いぐらいだね」

「陸遜と龐統を、褒めてやらねえとな。さあ、敵を蹴散らすぞ」

「ああ、決戦だ」


 南方の程普軍、北方の黄蓋軍から、陸遜と龐統がそれぞれ半分の兵を率い、来援したのだ。

 彼らは不慣れな益州の中で、密偵の案内を受けながら、速度重視で移動してきた。

 そのために最低限の兵糧しか持っていないが、俺たちが補うので問題はない。


 そして2万の援軍を得たことで、味方は5万人近くに増強された。

 対する劉璋軍は半月の間に兵を消耗し、こちらとほぼ同等の兵力になっている。

 さらに疲労も蓄積し、士気も低下しているとくれば、味方の優位は明らかだ。


 かくして俺たちは、野戦陣地を出て攻撃の構えを見せる。

 逆に敵軍は、こちらの増援に気がついて浮足立つ始末だ。

 そのため敵は早々に劣勢となり、やがて成都へ向けて敗走していった。


 この時、陸遜や龐統の軍で退路を断てればよかったのだが、さすがにそこまでは上手くいかない。

 しかも殿しんがりを劉備たちが受け持ったため、予想以上に多くの敵に逃げられてしまった。

 さすがは劉備、三国志で勝ち残った群雄の1人だけはある。


 しかし情勢は明らかに変わった。

 今後は成都をいかに早く、犠牲を少なく落とすかが、焦点となるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備ファンの方は、こちらもどうぞ。

逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~

白帝城で果てた劉備が蘇り、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ