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それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ
第2章 呉王就任編

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幕間: 劉備クンは軍師が欲しい

建安5年(200年)10月 州 汝南じょなん郡北部


 俺の名は劉備りゅうび 玄徳げんとく

 幽州生まれの流れ者だ。


 恐れ多くも劉姓を名乗っちゃいるが、その素性はあいまいだ。

 俺んちなんて、ワラジとかムシロを編んで生活してて、一般庶民と変わりない。

 ま、一部の由緒正しい家系を除けば、ほとんどそんなもんよ。


 それでも多少は腕に自信のあった俺は、黄巾賊討伐で功を上げ、役職を得たりもした。

 しかし堅苦しい生活が嫌で、フラフラと流れ歩いてきた。

 これでも一時は徐州の牧にまで、成り上がったんだけどな。


 だけど各地で群雄がしのぎを削る中、それを守るのは容易じゃなかった。

 結局、呂布に徐州を乗っ取られ、曹操の世話になったりしながら、生き残ってきた。


 で、今は袁紹えんしょうの陣営に身を寄せていて、汝南を攻めるよう指示されている。

 曹操の背後をおびやかして、戦況を有利に導こうというのは、合理的な考えだ。

 それでわざわざ汝南までおもむいて、地元の賊と組んで敵を攻めていたんだが……


「長兄よ、曹操の軍が、こちらへ向かっているそうだぞ」

「マジで? 袁紹の野郎、もう負けたのかよ!」

「ほんと、役に立たないっすね、あいつ~」


 俺を長兄と呼ぶのは、関羽かんう 雲長うんちょう

 見事なヒゲをたくわえた偉丈夫だ。

 彼はその武力もさることながら、教養に溢れた士人である。

 ちょっと自尊心が強すぎて、扱いに困ることがあるけどな。


 そして俺と一緒に袁紹をけなしてるのが、張飛ちょうひ 益徳えきとくだ。

 つぶらな瞳がちょっとかわいい、ヒゲヅラの大男である。

 こいつも腕っぷしは相当なものだが、頭はあまり良くない。

 それがまた彼の、かわいいとこなんだけどな。


 それで関羽の情報によると、曹操がこちらへ向かっているらしい。

 それってつまり、袁紹はすでに負けたってことだよね?

 あっれ~、おかしいな~。

 たしか袁紹の方が倍くらい、兵数は多かったはずなんだけどな~。


 ほんっとに使えねえな、あのボンボン。

 口を開けば、”我が袁家は四世三公しせいさんこうの~”とか、”汝南袁家こそ、天下に号令するべき家柄で~”とか言いやがって。

 お前のせいで、洛陽の袁一族が董卓に処刑されたの、知ってんだぞ、バ~カ、バ~カ、バ~カ。

 それなのに抜け抜けと、よくもまあ……


 いや、そんなことはどうでもいい。

 問題は今後の行き先だ。

 俺は配下の糜竺びじく孫乾そんかんに問いかけた。


「なあ、これから俺たち、どこへ行けばいいと思う?」

「……それなのですが」

「やはり荊州はやめた方がよいかと。行くにしても、素性を隠して通り抜けるべきです」

「ええ~、マジで~?」


 彼らが申し訳なさそうに言った言葉に、思わず不満がこぼれてしまう。

 たしかに頼ろうと思ってた劉表が、孫策に討たれたとは聞いている。

 しかし劉表の残党はまだ残っているだろうし、あわよくば孫策と同盟できないかとも考えていた。

 すると話を聞いていた関羽が、疑問を口にする。


「何が問題なのだ?」

「それが、襄陽から南の地域では、我らの人相書きが配られていて、見つかれば捕まる可能性が高いのです」

「ほんとかよ? 曹操はそこまでやるってのか?」


 予想外の情報に思わず聞き返すと、孫乾が言いにくそうに答えた。


「いえ……曹操の指示ではなく、どうも孫策がやっているようです。おそらく曹操に敵対した我らを売ることで、歓心を買おうとしているのでしょう」

「うっわ、俺たちの武力よりも、首の方が役に立つってか、くそ……孫策との協力は諦めるしかないな。それじゃあ、劉表の残党は?」


 しかし孫乾は、やはり首を横に振る。


「恐ろしいことに、もうほとんど制圧されているそうです。治安も急速に回復しているため、南陽郡から難民が流れこんでいるほどだとか」

「え~~、マジで?……たしか劉表が討たれたのって、ほんの2,3ヶ月前だったよな?」

「ええ、そのとおりです。孫策伯符、聞きしにまさる切れ者かと」


 敵を褒めるその言葉に、思わず反論が口をついて出た。


「チッ、そんなのどうせ、優秀な配下がついてんだろ? 廬江周家が協力してるっていうし、中原から逃げてったやつも多いだろう」

「ええ、そうなんでしょうね。勇猛な武官だけでなく、優秀な文官も多く抱えているようで」

「くそ、俺にもそんな配下がいればなぁ……」


 何気なくいった言葉に、糜竺と孫乾が顔をわずかに歪める。

 俺は失言したことに気づいて、すぐに言い直した。


「ああ、そういう意味じゃねえんだ。糜竺と孫乾は、よくやってくれてるよ。ほんと、感謝してる」

「もったいないお言葉」

「しかし我らは内政はともかく、軍略にうといのも事実です」


 そのまましばし、気まずい雰囲気が流れる。

 こいつらは俺が徐州牧になって以来の付き合いだが、その後も俺についてきてくれている。

 糜竺なんかすげえ金持ちだったのに、それを全て俺に懸けてくれたのだ。


 しかし俺は軽率にも、呂布を信じて徐州を乗っ取られ、その後も盛り返せずに、こうしてフラフラしている。

 はたしていつになったら、彼らに報いてやれるのか?

 そんなことを思っていると、趙雲ちょううんが話を戻す。


「それで、残る選択肢としては、益州に劉璋りゅうしょうを頼るか、涼州の馬騰ばとう韓遂かんすい辺りになるんですかね?」

「はい。それぐらいしか、ありませんね」

「ええ~、どっちもめっちゃ遠いじゃん……」


 どちらを選んでも、ろくな事になりそうにない。

 益州なら漢中を抜けるか、長江をさかのぼらねばならないし、涼州ははるか北西の辺境である。

 たしか漢中には張魯って奴がのさばってて、通行を妨げているらしいから、益州に行くには長江をさかのぼるしかないな。

 だけどそんなの、下手すりゃ孫策に捕まって、打ち首じゃね~か。


 もう一方の涼州は、ほとんど人も住まない辺境で、蛮族がウヨウヨしているとも聞く。

 そうなると通行に難があるとしても、益州の劉璋一択かなぁ。

 なんてったって同じ劉姓だから、多少は歓迎してくれるだろうし。


「……事実上、劉璋しかないんじゃねえか?」

「うむ、儂もそう思うな。長兄とは同じ劉姓であるから、多少は融通ゆうずうもきくであろう」

「う~ん、そうでしょうか? 涼州だってきょう族を味方につければ、頼もしいかもしれませんよ」

「いやいや、なんの当てもなく行っても、難しいでしょう」

「ですかねぇ……」


 趙雲だけは涼州もありだと思ってるらしいが、他は益州一択だ。

 結局、俺たちは曹操が来る前に、汝南の地を去ることにした。


「なんつ~か、こう……俺たちの軍師になってくれるような人が、現れないもんかね。呂尚りょしょうとまでは言わなくても、張良ちょうりょうみたいな人がさ」

「それ、めっちゃぜいたくっすよ、あにい」

「だよな~」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【諸葛亮】


「ん? 気のせいか……」

かくして劉備と諸葛亮の間の糸は、断ち切られました。(ニッコリ)

文末で名が出た呂尚は太公望とも呼ばれ、周王朝の建国に尽力した名軍師。

張良も劉邦を助けて、漢王朝の建国に貢献した名軍師です。

両方とも超有名で、無い物ねだりの典型ってお話。

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