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それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ
第2章 呉王就任編

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24.襄陽陥落、ついでに老将も

建安5年(200年)7月 荊州 南郡 襄陽


 韓嵩かんすうと話した日の晩、城内に異変が起きた。


「孫策さまっ、城内から火の手が上がっております」

「なんだと?」


 急報を聞いて天幕の外に出てみると、たしかに襄陽の中が明るくなっていて、なにやら騒がしかった。


「敵が打って出る様子もないから……内輪もめか?」

「おそらくそうだろうね。降伏派と抗戦派に分かれて、争ってでもいるんじゃないかな」

「あ~、それはありそうだ……」


 周瑜の説明に納得していると、逆に問いただされる。


「孫策の指示ではないんだね?」

「もちろんさ。韓嵩に任せるつもりだったから、何もやってない」

「ふむ、やはり自滅の可能性が高いか。兵に攻めさせるかい?」

「……いや、下手に突入させて、兵をそこないたくない。朝まで警戒は解かずに、交代で兵を休ませよう」

「ああ、それがよさそうだ」


 そう言うと、周瑜は兵に指示を出すため去っていく。

 俺もしばらく様子を見てから、眠りに戻った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 グッドモーニング、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 朝起きてしばらくすると、襄陽の門が開いた。

 そして白旗を掲げた一団が、またもや俺の下へやってくる。


「おはようございます、孫将軍。昨晩はお騒がせいたしました」

「おお、韓嵩どの。無事なようでなによりだ。何やら城内で騒ぎが起きていたようだが、決着したのか?」

「はい。私が将軍のご要望をお伝えしたところ、一部が暴発しまして……幸いにも、朝までには決着がつきました」

「そ、そうか……それで、劉表りゅうひょうどのは?」


 すると韓嵩は沈痛な表情を浮かべ、報告する。


「残念ながら乱闘に巻きこまれ、お亡くなりになりました。現在はご子息の劉琦りゅうきさまが、指揮を執っておられます」


 うわ、劉琦ってたしか、劉表に嫌われてる方の子供じゃん。

 ひょっとして劉琦が叛旗をひるがえして、弟の劉琮りゅうそうもろとも討ち取ったとかじゃねえだろうな。

 いずれにしても、こちらにとっては都合がよさそうだ。


「なんと!……それは残念なことをした。お悔やみ申し上げる」

「ありがとうございます……それで本題ですが、劉琦さまは将軍にくだられる用意があります」

「おお、それは重畳。これ以上、無駄な血を流すのは、私も本意ではないのでな」

「はい、劉琦さまも、そうおっしゃっております。つきましては、昨日うかがった条件は、今も生きているのでしょうか?」

「もちろんだ。劉表どのに代わり、劉琦どのの列侯れっこう就任を上奏じょうそうしよう」

「重ね重ね、感謝を。これで戦も終わりになりましょう」


 そう言うと、韓嵩は再び場内へもどり、劉琦と話をつけてくれた。

 やがて城門が開放されると、俺たちの入城が許される。

 俺は一部の部隊を率いて、城内へ進軍した。


「うわ~、けっこう激しいっすね」

「ああ、思ってたよりも、ひどくやり合ったみたいだな」


 城内のあちこちには火災の跡が残り、死人やケガ人も見られた。

 やがて行政府らしき館にたどり着くと、そこでも片づけの真っ最中である。

 するとそこを指揮していた男が、俺たちに気づいて、近づいてくる。


「ようこそ、襄陽へ。儂は仮に軍を預かっておる者で、黄忠こうちゅうと申す」

「おおっ、貴殿が黄忠どのか。ご高名はかねがね……」

「はて、儂ごときの名前をご存じで?……なるほど、すでに情報で大きく負けておったのですな」


 やべ、この頃の黄忠はまだ無名だったか。

 たしか劉表の下で、中郎将ちゅうろうじょう(准将クラス)までいったはずだが、まだ仕官したばかりかな。

 しかし黄忠は俺の言葉を、こちらが情報収集にたけているがゆえと判断したらしく、しきりに感心している。

 まあ、密偵を使ってさんざんに敵を揺さぶったのだから、そう思うのも無理はない。


 こうして襄陽攻略戦は、あっけなく幕を閉じたのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安5年(200年)7月 荊州 南郡 襄陽


 襄陽を占領してしばらくすると、劉表の死の真相が見えてきた。

 どうやら襄陽内では、ひと月ほど前から降伏派と抗戦派に分かれ、暗闘が繰り広げられていたらしい。

 抗戦派は劉表を筆頭に、将軍の蔡瑁さいぼうが支援する形で大きな勢力を保っていた。


 しかし俺たちの切り崩しが効いたのか、韓嵩や蒯越かいえつ蒯良かいりょうら参謀格が、長男の劉琦を旗頭に巻き返しに出た。

 そして連日の説得により、劉表がいくらか譲歩の姿勢を見せたので、韓嵩が俺との交渉役を買ってでたそうだ。

 だが俺の出した条件を持ち帰ると、何かが気に障ったようで、劉表がブチ切れた。


 韓嵩に対してひどい罵声を浴びせ、剣まで抜いたらしい。

 周囲のとりなしで事なきを得たが、これで劉表は決定的に人望を失ってしまう。

 そして、このままでは埒が明かぬとみた韓嵩が、知り合いの黄忠に相談をしたらしい。


 黄忠は主君にそむきたくはなかったものの、韓嵩には恩があった。

 それに兵士や領民の大多数は、長期の籠城にんでおり、どう見ても民意は明らかである。

 やむなく彼は部隊を率い、劉表の身柄を拘束しにいったそうだ。


 しかし蔡瑁さいぼうの部隊と乱戦になり、気がつけば主要な人物は全て死んでいた、ということらしい。

 ホンマかいな?

 韓嵩たちにとって、都合が良すぎるような気がする。


 その辺のところを黄忠につっこんでみたら、彼はいっさい言い訳をしなかった。

 ただ己の不徳の致すところ、と言うだけで、後はだんまりだ。

 そこでちょっと思い当たることがあったので、カマをかけてみる。


「ふうむ、それはなんとも不思議なことよな。しかし劉表どのは、荊州刺史に就任した際、かなり強引な手を使ったとも聞く。それを恨みに思っている者も、いたのであろうな?」


 すると黄忠はわずかに身じろぎをしたが、黙ってそのまま頭を下げていた。

 どうやら当たりらしい。


 たしか10年ほど前に荊州入りした劉表は、州内を掌握するため、主要な豪族を呼び寄せた。

 すると55人もの豪族がそれに応じたのだが、劉表はそれを全て斬ってしまったらしい。

 そうでもしないと統制が取れなかったとはいえ、なんとも乱暴な話である。


 おそらく、それを恨みに思っていた兵士が、黄忠の配下にまぎれていたのではないだろうか。

 そしてそいつが、勝手に劉表と劉琮を斬ってしまった。

 おおかた、そんな構図であろう。


 そして黄忠はそれを配下のせいにはせず、自分でひっかぶろうとしていた。

 そのために主君殺し、もしくは部下も統制できない無能者と言われようとも。

 そんな不器用な男に、重ねて声を掛ける。


「たしかに不幸な出来事はあったようだが、その後の対処と、後始末の手際は見事だな」

「はは、お褒めにあずかり、光栄です」

「うむ。それでな、今後は俺に力を貸してもらえないか?」

「はあ?」


 もう新たな仕官は叶わない、そう思っていただろう黄忠が、間の抜けた声をあげる。

 そんな彼を、さらに誘ってみる。


「実をいうとな、人がぜんぜん足りんのだ。幸か不幸か、蔡瑁も死んでしまった。誰か荊州の兵をまとめる将が、早急に必要であろう?」

「し、しかし、何もこのような老骨を使わなくとも」


 たしかに黄忠はすでに、50歳を超えた爺さんだ。

 しかしその動きは矍鑠かくしゃくとしているし、史実でもまだまだ長生きしている。


「いや、その経験と知識をいかしてもらいたい。もう決めたからな。なに、死ぬまで働けとは言わん。だがもうしばらくは、俺につき合ってくれ」

「……ハハハ、孫策さまは変わっておられますな」

「ああ、よくそう言われる。これからよろしく頼むぞ」


 すると黄忠は観念したように肩を落としてから、グッと胸を張り、拱手こうしゅの礼を取った。


「分かりました。この老骨の命、孫策さまにお預けしましょう。今後ともよしなに」


 こうして俺は、有能な老将をも手に入れた。

拱手こうしゅとは、胸の前で右拳を左手で包むように握るしぐさです。

中国映画でも見られる、感謝や依頼を示すあいさつの一種ですね。

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