静と動のハサミ撃ち! 平穏な昼寝は許されない
僕の城での生活は、常に二択を迫られる。
A. アルヴィナ姉さまの「静かなる包囲網」の中で生きるか。
B. エリス姉さまの「物理的な連行」に耐えるか。
どちらを選んでも地獄だが、最悪なのは、両方の地獄が同時に襲いかかってくる「挟撃(ハサミ撃ち)」だ。
僕は今、完璧な隠し場所にいる。城の図書室の裏、誰も使わないはずの旧書庫への通路だ。アルヴィナ姉さまは「お風呂以外ずっと図書館」だが、さすがにこの通路の存在は知らないはず。エリス姉さまは「図書館は訓練に役立たない」と断言しているため、まず近づかない。
僕は、念願のダラダラ・タイムを確保したのだ。
壁にもたれかかり、目を閉じ、全身の力を抜く。至福の瞬間だ。この数分だけでも、アルヴィナ姉さまの咀嚼カウントから解放され、エリス姉さまのアイアンクローから頭を守れる。
目を閉じて、静かに、静かに……。
その時、頭上から、非常にクリアで、しかしどこか冷たい声が響いた。
「ルーカス」
思わず飛び起きた。声は、図書室の天井、つまり僕の真上から聞こえる。姿は見えない。
「アルヴィナ姉さま!? え!?」
見えないが、監視されていることは確信できる。そして、僕は完全に油断していた。
「まさか、休憩中にダラダラするなんて! 休息は次の活動への準備であるべきよ。そのように壁にもたれかかると、背骨に負担がかかり、将来、立派な魔術師としての姿勢が保てなくなるわ!」
ヒュウウウッ……
天井から降りてきたのは、一本の細い風のロープだ。それは僕の背中に回り込み、まるで矯正ギプスのように、正しい姿勢で「直立不動」になるように僕の体を引っ張り上げた。僕は壁にもたれるという小さな自由すら奪われ、通路の真ん中で微動だにできなくなった。まるで、見えない美術館の彫刻だ。
「……お願いだから、せめて、少しだけ休憩させてくれ……」
「休息は、疲労の後に適切な負荷をかけることで初めて効果を発揮する」
その声が、僕のすぐ背後から聞こえた。
ガシッ!僕の左腕が、強力な、鋼の握力に掴まれた。
「エリス姉さま!?」
振り返る必要もない。この破壊力を持つ握力は、キアス城にただ一人しかいない。エリス姉さまが、いつの間にか通路の入口に立っていた。彼女の目には、獲物を見つけた狩人の喜びが宿っている。
「アルヴィナ姉さま、ナイスサポートだ! 彼は案の定、サボっていた! 直立不動でいるなら、なお都合がいい!」
「エリス、ルーの姿勢を崩さないようにね。あくまで背骨を矯正するための運動よ」
「もちろんだ! 姿勢を保ったまま、スクワット百回! 始め!」
エリス姉さまの「物理的な圧力」強制的な直立不動スクワットの刑。僕は絶望した。
上空からアルヴィナ姉さまの魔力の糸が背骨を強制的に支え(静)、正面からエリス姉さまの物理的な怒号がスクワットを強制する(動)。
僕はスクワットをするたびに、風の糸に引っ張られ、エリス姉さまに「姿勢が崩れている!」と怒鳴られる。背筋は真っ直ぐ、足はプルプル震える。これはもう訓練ではない。これは拷問だ。
僕は、完全に二人の姉さまの間に捕らえられてしまった。アルヴィナ姉さまの監視と矯正、エリス姉さまの特訓と暴力。
キアス辺境伯家の三男は、今日も「動け!走れ!戦え!」と「安全な場所から一歩も出るな!」という相反する矛盾の中で、必死にスクワットをこなすしかなかった。




