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キレイで豪華な手紙

お読み頂き有難う御座います。


「お釣り……?」

「ごめんね、違うよ。困ってたみたいだから……。要らないお節介だったかな」

「……イル?」


 ラティーナが振り返ると、ビージの従弟イルが困った顔で其処に立っていた。

 2歳歳下の彼は、暫く見ない内に随分と背が伸びたようだ。だが、困っている人を見ると助ける優しい心根は変わっていないようだ。


「うん、ビージに困らされただろ」


 ラティーナは首を振って否定する。


「お節介だなんて。とても助かったわ。久しぶり、イル。」

「そうか。ラティーナも元気そうだ」


 イルはホッとしたようで、はにかんだ。昔と同じ笑顔で、思わずラティーナも笑顔になった。

 先程の不愉快な気持ちが霧散していく。


「でも、おかしいわね。咄嗟とは言え。ビージは従弟(イル)の声も分からないのかしら」

「アイツ、若い男と見ると『伯爵様と結婚する高貴な私に声を掛けないで。あ、愛人希望なの? アタシに貢げるお金は有るの?』って言うんだ」

「……何て失礼なの! この上なく無礼だわ」


 先程男には声を掛けていなかったが、女とはかなり違う見下し方をしているようだ。

 この町は狭い。

 ラティーナを含め、殆ど知り合いだと言っていい人達にあのような言い様だとすると……かなり煙たがられているに違いない。


「元々嫌な人だったけど、更におかしくなってるのね。見初められたって本当なの?」

「ビージはそう大声で言ってる。お相手は伯爵様の家の坊ちゃんだって。

 都会には綺麗な人なんて山程居るのに、何であの性格根性悪を見初めるんだ?」

「そうよね……」


 イルは、優しげな顔を顰めた。ビージと似た茶髪と淡い赤の瞳なのに、イルからは全く受ける印象が違う。

 母親が姉妹らしいが、性格が違うとこうも変わるの、ととラティーナは不思議に思った。


「私、叔母さんのお産を手伝う為に昨日帰ってきたばかりなのよ。よく知らなくて絡まれたの」

「えーと……始まりは、ビージの家にキレイで豪華な手紙が届いたらしいことからかな。二ヶ月後に王都で結婚式をやるから、花嫁になれって」

「えっ……。そんなことってあるの?」


 伯爵家ともなれば、面子や、儀礼に煩い筈なのに。婚約期間も置かず、結婚式?

 相手が平民だから、簡略化しているのだろうか?

 下級侍女として働いていたが、ラティーナには全く見当もつかない雲を掴むような話だった。劇場の演目くらいしか、そんな突拍子もない話を思いつかない。


「見たくもないのに見せられたけど、見たこともないキレイな紙だったよ。

 でも俺には、貼られてる高貴な伯爵家の紋章とか分からないし……」

「それもそうよね……」


 ラティーナも紋章を勤め先で幾つか見たことあるが、複雑なものが多い。平民のイルに、領主のものでもない紋章の判断がつく筈が無かった。


「勿論偽物だとは思ったよ。よくビージは変な小細工を仕掛けて笑い者にしてくるから」

「相変わらず最悪ね」

「でも、あんなアイツに高そうな手紙作れるかな。後でバレたら、お貴族様から罰を受けるだろ?

 だけど俺らに本物かどうか、なんて分からなくて」

「確かに罰せられるでしょうね……」


 大体、ビージの家もそんなに豊かでもなんでもない。手紙を綴る美しい字の素養もないし、高価な手紙を作る技能も無い筈だ。大体高位貴族の出す手紙に使う紙自体が町に置いていない。使う必要がないからだ。


「おじさんとおばさんは?」

「その辺で喚くビージを止めて回ってたけど、止めても止めてもビージが無理矢理家から抜け出すんだ。疲労困憊でウチで静養してるよ」

「可哀想に…」


 ごく一般的な平民に近い騎士であるビージの父親と、気弱なビージの母親がグッタリしている様が目に浮かぶ。

 ビージの母親は娘のせいでいつも悲しげだったが優しく可憐な美貌を持っていて、若い頃にはとてもモテたらしい。


 だが、ビージは母親に少し似ているとは言え。性格を知っている者からしたら、顔立ちなんて何の好意に結びつかない。町の者は誰もビージと関係を結びたがらなかった。

 昔から、ビージの家は娘のせいで遠巻きにされていたのだ。そして、不憫に思ったイルの家が手助けしていた。


「本当に、あのビージが伯爵家の方に見初められたのかしら。

 確かに顔は多少可愛いけど、一言目から性格最悪なのに」

「アレが可愛い……かあ?

 歩き方もガサツだし、嘘つきだし、意地悪だし。

 絶対に嘘だと思ったんだけどな……」


 全く理解がしがたい。だが、嘘だと断じるのも……という状況のようだ。

性格悪すぎても後から小突かれない平和な町です。

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